#801 世界の小麦事情・・・ウクライナ危機の影響

現在の世界の小麦事情を、業界紙(製粉振興#616)のデータを基に簡単にまとめてみました。直近(2021/22年度)では、世界中で7.88億tもの小麦が生産されています。この全てが食用に回るのではなく、昨年(2020/21年度)は、1.38億tが飼料用途でしたので、大雑把にいって6.5億tが食用小麦となります。これは歩留りを70%とし、1食100gで計算すると、45,500億食。世界人口(79億人)でわると、576食/人、つまり毎日1.5食は小麦粉食品ということになります。

さて小麦生産量の多い順に並べたのが画像左になります。1番多い地域がEUの1.38億tで、表にはでていませんが、EC域内で生産量が多いのが、フランス(0.368億t)>ドイツ(0.214億t)>ポーランド(0.122億t)>ルーマニア(0.113億t)となります。そして単独で一番多いのは、中国(1.371億t)>インド(1.095億t)と続きます。そして現在、渦中の国であるロシア(0.750億t)とウクライナ(0.330億t)を合せると1.08億t、これはシェアにして13.8%となります。つまりこの両国は、世界の小麦市場においてかなりの存在感があります。

しかし驚くのはこれからです。画像右は、小麦輸出量が多い国順に並べた表です。一番多いはEUですが、2番目(ロシア)と3番目(ウクライナ)の輸出量の合計は、0.586億tとなりこれは、総輸出量1.957億tのなんと30%にもなります。ウクライナは欧州のパンかごとも呼ばれている農業大国です。現在、ロシアによるウクライナ侵攻により両国からの小麦輸出が滞るのではないかという懸念から、小麦の国際価格は高騰し、3月3日のシカゴ穀物市場では、2008年3月以来、約14年ぶりの高値をつけました。

日本は現在小麦の自給率は10%余りで、過去5年かの平均は、国産82万t、輸入小麦488万tの合計570万tです(農水省HP)。また輸入小麦の内訳は、アメリカ(49.8%)、カナダ(33.4%)、オーストラリア(16.8%)と、ロシア・ウクライナからの輸出はありません。しかし小麦価格は当然国際市場に連動するため、さらなるパンやうどんなど小麦粉製品の値上がりにつながる可能性が高いと言えます。つまり全世界の小麦輸出量の30%を占めるロシア・ウクライナ両国からの輸出滞る事態になれば、それが世界の小麦市場に及ぼす影響は測り知れません。

前回の高騰(2008年)から14年が経過し、歴史は再び繰り返すかもしれません。2008年当時は、原油の高騰に端を発し、小麦を含む諸物価が高騰しました(#134)。特に穀物の世界においては、バイオエタノール、発展途上国における需要増大、干ばつ、投機マネーなどの要因が複雑に絡み合い、うどん用小麦の主力銘柄であるASWは、当時50%以上の値上げとなりました。「旨い・安い・早い」と言われた讃岐うどんですが、2013年に実施した8年ぶりの価格調査(#389)では、かけうどんの平均価格が239.4円となり、8年前の調査より15.0円の値上がりとなりました。これは2008年の小麦価格の高騰が原因であることは言うまでもありません。

さらに遡れば、第1次オイルショックの狂乱物価時(1974年)にも大きな値上げがありました。当時は、土地投機によるインフレと第四次中東戦争に端を発した石油高騰により、何もかもが値上がりし、トイレットペーパー騒動も起こりました。小麦粉も同様で、どんどん値上がりし、当時のスクラップをみると次のようなうどん店主の感想がありました。「高松のうどんも今年に入ってから大分値上げされた。原料が上がったから仕方ないと言っては済まされない」、「さぬきうどんももう来るところまできた。もううどんもおしまいですよ」などなど悲観的な意見が多くみられました。今回のロシアによるウクライナ侵攻が一刻も早く終息してほしいと願いながら、全世界が固唾を呑んで見守っています。