#269 ロンドンのうどん屋さん

これまで日本料理の御三家といえば、天ぷら、にぎり寿司、刺身と相場が決まっていました。しかし良く考えてみてください。これらは確かに日本を代表する料理ではありますが、毎日食べている日本人はまずいないと思います。これらは毎日食べるには少し脂っこいし、味がくどいように感じます。その点うどんやそばは、あっさりとして、毎日食べても平気、というか実際に私も毎日食べていますが、一向に飽きません。これほど最高のB級グルメであり国民食である麺類なのに、なぜ御三家ほど諸外国で普及しないのか、その理由を以前考えたときは、「すする」という動作に物理的かつ精神的な制約があるからではないかと申しました(#152)。

しかしラーメンなどは最近、海外進出の話をよく聞きますし、世界の人達はそろそろ、麺類のおいしさに気付き始めたのかも知れません。そんな折、先日ある問屋さんから興味深いお話をお聞きしました。「昨年ロンドンにオープンしたうどん屋さんな、そんじょそこらのさぬきのうどん屋さんより旨いんやで」っと。以下問屋さんから聞いたお話と、お店のHPなどをもとに簡単にレポートしてみました。

オーナーはジョンさんといい、以前日本料理の修行に日本にやってきたそうです。でもあるときさぬきうどんにめぐり合い、それ以来どっぷりと遣ってしまったそうです。他のさぬきうどん巡礼者と同じく食べ歩き、その趣味がこうじて手打ちうどん教室に通い、手打ちうどんの技術を習得しました。そしてとうとう昨年4月にロンドンにうどん屋をオープンさせました。うどんは純手打ちだそうで、今時これほどの手作業でやっているうどん屋さんは、日本では数えるほどです。

確か作業場は地下室だとお聞きしましたが、そこでは足踏みしてできただんごを一つずつ包んで並べ、そのすべてにロット番号を付けて管理しています。壁には一面にメモ書きが貼りつけてあって、それぞれの工程でのポイントを忘れないように工夫しています。直接見たわけではありませんが、壁一面のメモ用紙を前にして、生地を踏んでる光景は圧巻だそうです。小麦粉は言うに及ばず、イリコ、しいたけ等のだし関連の具材はすべて日本からの直輸入です。

メニューも本格的で、かけうどん、天ぷらうどんはもちろん、「ひやあつ」もあります。ひやあつとは、冷たいうどんに熱いつゆをかけるメニューですが、私は普段食べないので、「ひやあつって、ひょっとしたら冷たいつゆに熱いうどんやろか?」と考えることもありますが、メニューには注釈として「Cold Udon with Hot Broth」とあるのでよくわかります。ただ大将が釜に張り付いていることができないこともあって、「釜揚げ」だけはメニューにないそうです。価格はかけうどん£6.2(820円)、天ぷらうどん£9.3(1200円)と気持ち高めですが、場所柄を考えると極めて良心的とも言えます。

そして何より特筆すべきは、その味です。お話を伺った問屋さんは、「そんじょそこらのうどん屋よりも旨い」と言いました。そしてたまたま現在ロンドンに滞在している知り合いがいましたので、そのうどん屋を紹介したところ、「確かに旨い。パリのうどん屋さんよりも旨いし、これだけのレベルを維持すろのは大変だろうね」という感想が返ってきました。つまり縁もゆかりもないお二人が揃って「旨い!」と唸るのですから、間違いなく旨いと思います。みなさんもロンドンに行ったら是非お立ち寄りください。そうそう、そのうどん屋さんはKOYAといいます。小屋のKOYAです。