#907 「生命と非生命のあいだ(小林憲正一著)」

「しかし、みんなはどこにいるのだろう」。これは、1950年の夏のある日、イタリアの物理学者エンリコ・フェルミ(1901~1954)が昼食をしていたレストランでつぶやいた言葉です。ここでの「みんな」とは宇宙人のことです。宇宙にはこれだけ多くの星があり、また創生されて138億年も経過しているのにもかかわらず、なぜ私たちはまだ宇宙人に出会っていないのだろう。考えてみれば、これはとても不思議なことではないのだろうか、彼はそう思い疑問を発しました。

太陽が属する天の川銀河にはおよそ2000億個の恒星があります。さらに私たちが観測可能な宇宙には、銀河が2兆個あるとされています。これだけ多くの星があれば、いくらなんでも生命さらには知性をもつ生物のいる惑星が存在しても不思議ではありません。しかし科学技術がこれほど(?) 発達した現代ですが、(Q1)生命はどのようにして誕生したのか?(Q2)地球以外に生命は存在するのか?といった素朴な疑問については未だに解答は得られていません。本書は、このような疑問を解明する試みを歴史的経緯を踏まえ、コンパクトにかつ解りやすく説明してくれます。以下、興味深かった点を簡単にまとめて見ました。

生命の誕生は物質の進化の末に起きたという「化学進化説」は、オバーリンやホールデンによって提案されました。つまり単純な小さい分子から複雑で大きな分子ができ、それらが集まって増殖する分子集合体になることで、生命誕生の出発点になったとする仮説です。しかし、実際にまだ物質から生命が作られたという事実はないので、これは大きな謎のままです。一方、地球外の天体(小惑星や彗星)やそのかけらの隕石・宇宙塵からアミノ酸などの有機物がみつかり、それらが生命の誕生に必要な有機物を提供してくれた可能性が高いことがわかってきました。つまり「生命の起源・宇宙由来説」です。

約45.6億年前に地球が誕生してから2億年くらいたつと海ができ、生命が誕生しうる環境ができていたようです。しかし41億年前くらいからの後期隕石重爆撃により、生命を育む海が消滅し、次に海が復活するのは重爆撃が終息する38億年前くらいであったと考えられています。そして生命はその38億年前くらいには誕生していた可能性が高いようです。現在、地球上には既知のものだけで175万種、未知のものを含めるとおそらく1億種を超える生物がいますが、これらはすべて共通の祖先から進化したものです。つまりすべては「タンパク質と核酸(DNA,RNA)、そしてリン脂質の膜を使う生命形態」であり、私たちは他の形態の生命を知りません。

そして現時点では核酸がどのようにしてできあがったのか、その経緯も解明されてはいません。20種類のアミノ酸が多数結合してタンパク質となり、タンパク質から核酸ができます。つまり有機物⇒アミノ酸⇒タンパク質⇒核酸とステップアップする必要がありますが、核酸へのハードルは極めて高く、その進化のメカニズムはいまだに解明されていません。

繰り返しますが極めて興味深い事実は、現在わかっている生物は、すべて「DNA/RNA/タンパク質システム」という生命システムを採用していることです。かつて40億年前の地球では、さまざまな生命システムが併存していた可能性もあり、そのなかでたまたまDNA/RNA/タンパク質システムが選択され、それが共通祖先に進化したかもしれません(画像参照)。よって地球外生命が存在したとすると、それは我々とは全く異なる生命システムを採用しているかもしれません。そう考えるとワクワクドキドキします。「私たちとは異なる生命システムを採用している生命は果たして存在するのか?」この問に対する解答を、私たちの目の黒いうちに白黒はっきりさせてほしいと願うばかりです。