#896 日本の小麦事情2024

先日農水省担当者より「日本の小麦事情」についてのレクチャーがありましたので、記憶に残った部分を簡単にまとめてみました。

【①R5年度の小麦の受給見通し】
日本の小麦政策は、「できる限り国産小麦で賄い、不足分を輸入によって補う」ことが原則になっています。とはいうものの現実の小麦自給率は15%程度に留まり、よって多くは米国・カナダ・豪州からの輸入に頼っているのが現状です(下図参照)。自給率15%という数字には、いくつか理由がありますが、そのひとつは小麦粉の品質にあります。美食国家日本では、小麦粉の品質に対する要求度が高く、純粋に小麦粉の品質に着目した結果、85%の外国産小麦が選択されたことになります。温帯モンスーン気候である日本は、高温多雨であるために、本来小麦の耕作には適していません。

R5年度の小麦需要は562万トン。これは小麦粉歩留り70%で換算すると国民1人当たり31.5kgとなり、これは毎日うどん1杯分の小麦粉に相当します。尚、総需要量の中に米粉5万トンが含まれていますが、これは生産過剰となっている米を、少しでも小麦粉の代替穀物として利用したいという期待の現れです。

【②国産小麦の用途別需要】
従来の国産小麦の用途は和風麺用が主体でしたが、近年は品種改良技術も進み、他用途への利用も進んでいます。現在、和風麺では国産小麦の使用比率が57%と高いのは当然ですが、菓子用16%、パン用8%、中華麺7%と他用途での使用比率も徐々に増加しています(下図参照)。実際、国産小麦におけるパン・中華麺用小麦の作付け比率は、下図のように右肩上がりに増加し、平成3年には僅か3%だったものが直近では26%まで増加しました。香川県でも従来は、うどん専用の「さぬきの夢」一択でしたが、昨年(R5)よりパン用硬質小麦「はるみずき」の耕作が開始されました。

【③国産小麦生産・需要状況】
R5年の国産小麦の作付面積は23.2万ha(収穫量109.7万t)となっています。ここ数年の国産小麦は天候にも恵まれ概ね豊作が続いていますが、農産物であるからには豊凶変動つまり天候による出来不出来は避けられません。よって凶作時における対応が課題となりますが、外国産小麦であれば、規格に合致した小麦だけを輸入することが可能です。つまり品質に関していえば外国産小麦のほうが安定していると言えます。

日本国内に限ると、香川県を始めとする瀬戸内地域は、年間を通じて温暖で雨が少なく乾燥しているため、麦作には適地とされています(瀬戸内式気候)。これは夏の季節風は四国山地に、冬の季節風は中国山地によって遮られるためです。実際、昭和初期には兵庫、岡山、香川の麦は「三県麦」と称され全国的にも高く評価されてきました。また古くは、江戸の中期(1713年)に出版された百科事典『和漢三才図絵』に「諸国みなこれあるも、讃州丸亀の産を上とする。」との記述があり、讃岐の麦は昔から優れた品質であったことがわかり、これがさぬきうどんが生まれた大きな理由です。

【④外国産小麦の政府売渡価格の推移】
他の商品同様、小麦価格は需給バランスによって決定されます。豊作であれば価格は下落し、逆に凶作であれば上昇します。また在庫率の低下は、価格上昇要因となります。最近では、ロシアがウクライナに侵攻したことで供給力不足が懸念され、結果としてR5年4月期(2023)には小麦価格が7万6,750円/トンまで高騰しました。またそれ以前では、H20年10月期(2008)の7万6,030円/トンがピークでしたが、このときは世界的な干ばつによる生産量の減少が原因でした(売渡し価格の推移)。

では7万6,750円が国内の小麦史上最高価格であったかというと、実はそうではありません。今から遡ること40年近く前の昭和61年(1986)には、なんと9万円/トンの時代がありました(画像参照)。そのような高い小麦価格が存在した原因は、1ドル=360円の固定相場制です。ここ最近の為替相場は1ドル150円前後の円安で推移していますが、当時はなんと360円の固定相場の時代で、これは1971年のニクソン・ショックまで続きました。物価を考慮すると、当時の麦価は相当高額であったに違いありません。