#886 書道の思い出

いつものうどん屋さんでうどんを待っていると、次々に注文が入ってきますが、多いのが「肉うどん」です。以前は、冬になると「鍋焼きうどん」が定番メニューでしたが、現在はメニューから消えています。理由は、調理するにも完食するにも時間がかかるためです。現在、お店では鍋焼きうどんの代替メニューを開発中だそうです。さてイラスト担当者による新着情報をお届けします。
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仕事の関係でたまたま半紙、墨汁、筆のお習字セットが揃う機会があったので、中学生ぶりに習字に挑戦してみました。私がお習字教室に通っていたのは小学校の6年間。車で20分ほどの場所でしたので毎週土曜午前は母に送り迎えをしてもらっていました。低学年の頃は硬筆と習字を習い、高学年になるとそれらに加え「絵詩文」というジャンルにも挑戦しました。絵詩文は色紙をベースに、上半分には毛筆で歌詞を綴り、下半分には歌詞に合った情景描写を水彩画で描くハイブリッドな作品です。なぜか「ちょうちょ」の絵詩文を描いたことはしっかり覚えていて、拙い作品ですが父はそれなりに喜んで飾ってくれました。

先生も優しいおじいちゃん先生だった上、いつも生徒にはお菓子とお茶を出してくれるので、私はそれも楽しみの一つでした。やがて中学に入ると部活や学校が忙しくなり、自然と足が遠のき、気付けば教室をやめていました。中学校では書道の授業があり、そこでの担当は超個性的な先生でした。中国の気功術もマスターしているその先生は、毎回授業が始まると夏でも冬でも関係なくはじめに教室の全ての窓を開け、空気を入れ替えさせます。続けて「足は肩幅に並行、床にしっかりつける。目は閉じて、上から一本糸で頭を吊られているようなイメージ」となぜか終始カタコトの日本語で、私たち生徒は書道に入る前の準備段階として必ずこの手順を励行させられました。

さらに先生自身が墨汁と半紙を使うことは一切なく、筆を水につけ黒板に文字を書いて教えてくれます。そのため暫くすると文字がスウっと消えてしまうので、「汚れない上に、むしろ黒板が綺麗になって合理的だなあ」と妙に感心したのを覚えています。今振り返ってもこの先生の言葉が一言一句すらすらと蘇り、不思議なエピソードも次々と思い出します。みなさんも大人になった今でもすぐに思い出せるほど印象的な先生が、何人かはいると思います。

話は現在に戻り、中学ぶりに書道をしてみると思いの他上手く書けることにびっくりしました。習字の課題では定番となっている「希望」という漢字を書いてみると、自分で言うのもなんですが、かなり達筆に書けたのです。その大きな理由は文字を俯瞰的に捉えているからだとすぐに感じました。確か小さい頃は、文字を書くときは、一画、一文字に必死で、目の前の筆の行き先にばかり気を取られていたのを覚えています。それが不思議なことに大人になってみると「次はこうしたら綺麗に見えるな」といった文字や全体のバランスを見据えて筆を動かすようになっているのです。「はらい」や「うったて」といった基本的なルールは学生時代に身についているので、今回新たに「俯瞰的に捉える」ことを意識しながら書いてみると、意外にも思い通りの文字が書けてさらに楽しさを感じることができました。

調子に乗った私はこの勢いで書道教室に通ってみようかとも考え、近所の書道教室を探したのですがどうもピンと来るところがありません。そのうえ、さすが今の時代オンライン書道教室もあるようです。オンラインを否定する訳ではありませんが、書道教室特有の墨の香り、みんなが静謐な空間で静かに集中して取り組む姿(さらにはお菓子・・・)、そういったリアルな環境が大きな魅力だと思います。そんなことを考えながら、今はいないおじいちゃん先生の書道教室が改めて恋しくなりました。