#418 製粉業を巡るグローバルな動き

f418長尾精一先生は、大手製粉会社を退職された後、現在は一般財団法人・製粉振興会の参与をされています。技術的な分野だけでなく製粉産業界にも造詣が深く、誰もが認める日本製粉産業界の第一人者です。そしてその製粉博士である長尾先生が、年に一度、私たち業界人を相手に、「製粉講習会」でお話をしてくれます。これは過去1年間に起きた世界の製粉動向を、私たちに分かりやすく説明してくれる有意義なセミナーで、悩み多き日常の仕事の中で、唯一の清涼剤として毎年楽しみにしています。そして先日今年の講習会がありましたので、その一部を独断でご紹介します。

①再編が進む世界の製粉業界
以前ご紹介したように、日本の製粉企業数は減少の一途を辿り、実質的な企業数は60社程度となっています(#110)。一方、世界の方も、「世界の製粉事情(#186)」や「世界の製粉工場数(#357)」にあるように、各国バラバラではありますが、規模拡大による集約化の流れは共通です。そしてその最新版が下表で、ヨーロッパの国々を、集約化がかなり進んだグループと今なお進行中のグループに分けて表示しています。小麦粉の消費量にもよりますが、概ね人口100万当りの製粉工場数が1以下になれば、集約化のスピードが落ちるようです。

ヨーロッパの製粉企業数の推移

ヨーロッパの製粉企業数の推移

②世界の小麦生産量とその輸出量
世界の小麦生産量は、その旺盛な需要に応えて、順調に伸び直近ではなんと年間7億tにもなりました。ただ小麦需要はかなり落ち着いてきたので、今後当面の生産量はこの水準で推移すると予想されています。生産量が特に多い地域は、ECの1.32億tと中国の1.22億tですが、これらはどちらも自国もしくは域内消費が主体です。7億tの内、輸出に回るのは約1.5億t、つまり全体の20%が輸出に回り、80%が自家消費(自国消費)ということになります。私たちの関心が高いのは、輸出余力が大きい国々で、それらを大きい順に並べると、アメリカ(3050万t)、EC(2370万t)、カナダ(2260万t)、オーストリア(2000万t)、ロシア(1550万t)、ウクライナ(950万t)となります。

日本が輸入している国々は、アメリカ、カナダ、オーストリアの3国でこれらは、品質の良い小麦を生産するだけでなく、安定した輸出国なので、食料自給率の低い日本としては貴重な存在です。ロシアも輸出余力はかなりありますが、数年前に輸出禁止措置を実施した実績(#264)があるので、輸入する側にとってみたら少し心配な相手です。またウクライナは肥沃な土壌をもつ穀倉地域ですが、現在はロシアとECの狭間で大変な状況にあります。日本は、ウクライナ小麦を30万トン程度輸入しているそうですが、これは食用ではなく飼料用なので、大きな影響はなさそうです。

世界の小麦生産量と小麦貿易量

世界の小麦生産量と小麦貿易量

③アメリカにおける全粒粉と食物繊維をめぐる動き
全粒粉は元々は小麦全粒を粉砕したものですが、アメリカでは製粉工程において、小麦粉、ふすま、胚芽を別々に取り出し、後で小麦と同じ比率で配合したものも「全粒粉」として認められています。これは個人的な意見ですが、こうすれば胚乳やふすまの良質の部分だけを取り出すことができるので、小麦の機能的な成分を摂取しやすくなると思います。アメリカ人の食物繊維摂取量は、政府推奨値からかけ離れ、近づく傾向すら見えないとのことなので、こうすれば改善されるのではないかと思います。

④GMO(遺伝子組換え)小麦の動向
アメリカにおいては、現在トウモロコシと綿花は90%、大豆は93%、サトウキビは95%がGMOとなっているので、小麦におけるGMO導入ももはや時間の問題と考えられています。現在世界初のGMO小麦は除草剤ラウンドアップ(Roundup)で有名なモンサント社(Monsanto)が開発中の、除草剤耐性のある小麦品種が最有力で、実用化は秒読み段階だと言われています。一方、オーストリアは、高収量品種、また干ばつ耐性のある品種を目標に研究をしていて、実用化は数年先と言われています。