#357 製粉と小麦粉のお国ぶり・その①

私たちの製粉業界には、「製粉振興」という業界紙があり、その名の通り「製粉」に関連する様々な情報を提供してくれます。それは国内だけにとどまらず、世界中の小麦や製粉関連のニュースを毎月届けてくれます。他の雑誌では、まず見ることができない専門的な内容で、特に時折紹介される各国の小麦粉事情は、日本のそれとは大きく異なり、毎月の楽しみのひとつです。

その中に「製粉と小麦粉のお国ぶり」というタイトルの連載記事があり、世界各国の製粉産業が、分り易く紹介されています。執筆者は製粉博士で有名な長尾精一先生。大体隔月掲載で、毎回一つの国の製粉事情が紹介されます。第1回目の2008年1月号は、アルゼンチン、そして直近では2012年10月号に、20番目の国としてフィリピンが取り上げられています。シリーズはまだまだ続きそうですが、とりあえずこの20回目までを独断でダイジェスト版としてまとめてみましたので、ここにご紹介いたします。

掲載された20ヶ国の小麦粉生産量そして製粉工場をまとめたものが下の表です。ここでご留意いただきたいのは、小麦粉生産量と小麦粉消費量は必ずしも等しくなるとは限らない点です。というのは世界の国々の中には小麦粉を輸出する国もあれば、逆に小麦粉を輸入する国もあるからです。また生産量の中には、飼料用も含まれることがあるので、一概に生産量が多いから食用の消費もそうとは断言はできません。でもこの生産量をみれば凡その傾向はわかります。ちなみに日本は年間500万t程度の小麦を輸入していますが、小麦粉には高額の関税が課せられているので、小麦粉での輸入はほとんどありません。

また製粉工場数について補足しておきます。一般に大企業になると、工場がいくつも分散しているので、工場数は当然、製粉会社の数よりも多くなります。ただ表中のフィリピンについては、製粉会社数が12でしたが、工場数が不明でしたので、そのまま12としておきました。また日本ついては、製粉企業数は60社程度と報告しましたが(#353)、どの程度の規模までを含めるかにもよりますが、工場数としては大体100工場程度だろうと考えます。

人口が多いと小麦粉の消費も増える。だから当然製粉工場の数も多くなる。それにしてもです。中国やインドは異常に製粉工場が多いですね。中国の工場数は50,000とありますがこれは概数で正確な数はわからんと思います。ただこれらの大部分を占める40,000工場は挽砕能力が日産50t未満の小型製粉で、これらの多くは今後10~20年でかなりの数が淘汰されると予想されています。

一方インドには25,000工場とありますが、正確に言うと、私たちがイメージする一般のロール機を使った製粉工場は800工場程度で、それ以外は全て「チャキ(chakki)」と呼ばれるインド特有の石臼の小型製粉所のようです。チャキは石臼によって小麦を、全粒粉もしくは、歩留り95~97%の(ほぼ)全粒粉に加工するので、製粉機というよりも「粉砕機」と呼ぶ方がわかりやすいかも知れません。こういう小麦粉製品を主食にしていると、食物繊維やビタミン、ミネラルなどの摂取はバッチリで、生活習慣病なんかは縁のない食生活かと思います。

各国の小麦粉文化度、つまり小麦粉にどれだけ依存しているかは、やはり人口あたりの小麦粉消費量がポイントになってくるので、引き続きこの辺りをもう少し、分析してみようと思います。