#464 うどん対決・・・きぬあかりvs.さぬきの夢

f464坂出市内にあるH製麺所の社長から「珍しい粉が手に入ったんで、うどんを打ってみたんや。ちょっと試してみまい」といって打ちたてのうどんが5袋届きました。何でも愛知県産小麦の新品種「きぬあかり」を製粉した粉だそうで、愛知県では今後数年間かけて、現在のイワイノダイチや農林61号からこの「きぬあかり」に移行予定だそうです。愛知県はご存知のように「きしめん」や「味噌煮込みうどん」といった独自の麺文化を有する全国有数の「うどん県」ですが、今後この新品種「きぬあかり」の登場により、麺文化の益々の活性化が期待されるところです。

ところで試食をするのなら、ライバル同士を比較するのが一番ということで、図々しくも再度H製麺所に出向き、「さぬきの夢」うどんを分けてもらいました。やはり違いをよくみるなら、同じ環境で製造されたうどん同士を比べるのがベストです。両者をゆでた結果は画像の通り。きぬあかりは、「絹のように明るい」というその名前に相応しく、ゆでた直後は、随分白いと感じました。話が前後しますが、今回のうどんテイスティングの話というのは、M社長から「きぬあかりという小麦粉のスペックがすごいと聞いたので、一度分析してもらえんやろか」というのがそもそもの発端でした。

実際に分析してみて、果たして灰分:0.29、グルテン:20.3、アミロ:1400というその素晴らしくそしてユニークな結果にびっくりしました。灰分というのは、小麦粉の純度を示す指標として用いられ、その数値が小さいほど純度が高く、よって白さが増す傾向にあります。通常の上級粉の灰分が0.35程度であることを考慮すれば、0.3未満というのは際立った純度ということになります。一方、グルテンという小麦粉特有のたんぱく質は生地の「つなぎ力」を形成します。一般のうどん用であれば25.0~28.0程度の粉が多い中、きぬひかりの20.3というのは際立って低い数値です。

またアミロは、「小麦でんぷんの粘り」の大きさを示し、これが大きいほど、うどんを噛んだときの「もちもち感」が増大する傾向にあります。そしてきぬあかりの1400という数値は、他の小麦粉と比較すると際立って高く、かなりの食感の高さが期待されます。つまりこの「きぬあかり」という小麦粉は、単純にスペックだけから判断すると、白く仕上がり、また「もちもち感」に富んだ食感が予想されます。逆に低いグルテン数値は、「つなぎ力」が弱く、よってうどんがつながりにくくなることが予想されます。

実際のテイスティングの結果も、この分析値にほぼ合致するもので、簡単にまとめると次のようになりました:「きれいにまた鮮やかな淡黄色に茹であがり、その弾力の強い食感が特徴的。反面ゆで時に若干の短麺が発生しましたが、これはグルテンの弱さに起因するものだと考えられます」。ということで、「きぬあかり」という名前に相応しいうどんに仕上がったと感じます。一方、「さぬきの夢」は、噛んだ後、一呼吸遅れて口内に拡がる深い味わいが特徴的でした。

日本は狭小な地形が多いために、小麦を始めとする農作物の生産効率は低く、よって競争力は高くはありません。しかも小麦はどちらかといえば日本のようなモンスーン気候よりも、少し乾燥気味の大陸性気候の方が育てやすいため、日本で耕作するのは簡単ではありません。しかし日本各地でこのように其々特徴ある小麦品種が開発されることは、私たち讃岐のうどん関係者にとっても大きな励みになります。今後益々切磋琢磨しながら、各地で地産地消が高まれば、日本が世界に誇る麺文化が更に充実し、関係者としてはとても嬉しいことです。

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