#382 小麦の品質変化・・・熟成の必要性

前回(#381)、今年の「さぬきの夢」は出来が大変良さそうだとお伝えしました。そして実際のところこの空梅雨のお陰で、量、質ともにここ数年では最高のようです。ところで「お米は新米、そばも新そばとくると、新麦つまり小麦も獲れたてが、良いんでしょうね」という質問をときどきお受けします。確かにお米もそばも新しいほど美味しいうというのは真実ですが、実は小麦については、これは正しくありません。これについては既に、「収穫後の小麦の熟成#157」等で説明させていただいた通りです。

さて小麦の熟成の必要性について、わかりやすい資料がありましたので、ご紹介したいと思います。少し古くなりますが、これは業界誌・製粉振興2006年1月に掲載されていた長尾精一先生の「小麦の品質変化はどういう場合に起こるの?」という記事です。これによると6月に収穫された「さぬきの夢」も秋口辺りまで保管した後、製粉するのが良いようです。以下独断ですが、その内容をまとめてみました。よろしければご参考になさってください。

【収穫直後の小麦は使いにくい】
新米はおいしいけれど、古米や古々米になると味が落ちる。しかし小麦の場合は逆で、収穫して間もない「新麦」は使いにくいことが多い。理由は、収穫直後の小麦粒内では、細胞組織が活発に呼吸作用をしており、酵素類の活性も高い。よって小麦粉の生地をだれされる還元性物質の量も多く、不安定な状態にある。
このような小麦を原料にして挽いた小麦粉でパンをつくっても、生地がべとついたり、膨らみが不十分だったりして、良いパンになりにくい。しかし収穫後数ヶ月経つと、安定した状態になり、使いやすくなる。このような変化を「小麦の熟成(エージング)」という。

【水分が少なくて条件が良ければ長期間貯蔵可能】 
小麦粒はその水分が12%以下で、風雪に耐えられる倉庫に入っており、虫やねずみの被害を受けず、外部からの水の侵入もなく、高湿度にならなければ、長期間の保存が可能である。但し小麦は呼吸をしているので、貯蔵中にも僅かな変化は起こる。アメリカでの実験では、20年間で呼吸のために重量が1%減少した。また19~33年間貯蔵した実験では、外皮が脆くなり、製粉中に皮片が小麦粉の中に入り込む率が高くなった。でんぷん糖化酵素や脂肪酸の量も増加した。大きさはそう変わらなかったが、内相がやや劣るパンだった。

【高水分が貯蔵の大敵】 
(1)小麦の水分
小麦の水分はカビの増殖と直接関係するので非常に重要である。貯蔵期間が短くても水分は13.5%以下であることが必要であり、ある期間貯蔵しておくためには12%以下であることが望ましい。
(2)気温
10℃以下ではカビはほとんど増殖しないが、30℃近くでは小麦の水分が高めだとカビが増殖して大きな被害を与える。
小麦は熱伝導性が低く、それ自身の温度変化も緩慢である。例えばコンクリート・サイロで空気循環をしなければ、冬に入れた冷たい小麦は、夏の間中低温を保っている。また逆に温度が高い小麦を入れると、冷えないで高温に保たれているため、品質を損なうことがある。
(3)穀物害虫
穀物害虫は温度に敏感で、15.5℃以下ではほとんど増殖せず、41.7℃以上では死滅し、最適温度は29℃である。

【貯蔵条件と保存可能期間】 
小麦の貯蔵可能期間についての研究は1950~80年に多く行われた。そのうちCargill社のBailey氏は穀物の貯蔵条件と安全貯蔵期間との関係を次の表で表した。例えば穀物の水分が14%の場合、温度が10℃であれば256日保管できるが、37.8℃あれば8日間しか保存できないことになる。