#319 小麦粉のタイプ③・・・強力粉・中力粉・薄力粉

話が前後しますが、「強力粉と薄力粉は区別できるか?」との問については、目視だけでの判別は困難ですが、手に触れると大抵わかります。強力粉の原料である硬質小麦は硬いため、粉自体の粒度も大きくなり、触るとサラサラしています。一方薄力粉は、原料の軟質小麦が柔らかいために、粒が小さくなりやすく、その結果手にまとわりつく感じです。初めての方でも、両方の小麦粉を並べて比べると、その手触りの違いが実感できると思います。

さて一般的な傾向として、グルテン含有量が多いほどパンは膨れます。じゃあ、グルテンは多ければ多いほど良いのかというとそうではありません。もちろんグルテンの粘弾力によって、小麦粉生地は自由に成型できるので、ある一定量は必要です。しかし多すぎて良く無いこともあります。例えば、ケーキには「ふわふわ感」をだすためにグルテンの少ない薄力粉を使用します。グルテンが多いと生地が粘弾性が強すぎて、重たい食感になり、ケーキには不適です。

また天ぷらの衣に使用する小麦粉も、グルテンの少ない薄力粉を使用します。グルテンが多いとケーキ同様重たい食感になり、てんぷら特有のカリッとした歯切れの良い食感がでません。うどんでは食感に変化をつけるために、キャッサバからとれたタピオカでんぷんを加えることがあります(#278)。これはタピオカでんぷんの最高粘度が、小麦粉のそれよりも高いために、タピオカを入れることにより食感が変わるためです。また天ぷらの衣用として、小麦粉に更にでんぷんを付加することもあります。これはでんぷんを加えることにより全体のたんぱく質が下がり、てんぷらの衣としての歯切れ感が増すからです。

グルテンの働きを実感するためには、蕎麦もなかなか有効です。蕎麦専門店では十割蕎麦とか二八蕎麦(そば80%と小麦粉20%)が標準ですが、こういった蕎麦は歯ざわりが少し重たく、噛んだ時に跳ね返りがなくそのまま、噛み切れてしまいます。一方うどんは、噛んだときに必ず跳ね返る感じがしますが、これは小麦グルテンの粘弾性によるものです。

スーパーでは色んな乾麺の蕎麦が販売されていますが、二八蕎麦と表示しているものは、蕎麦粉使用率が80%、また普通に蕎麦とだけ表示しているのは蕎麦粉が30%のものです。両方を食べ比べてみると、前者はちょっと重たい食感なのに対し、後者は噛んだ時に跳ね返りを感じますが、これはグルテンの差によるものです。蕎麦粉は小麦粉に比べて高価なので、前者の方が商品価格は高くなります。よって価格だけで捉えると、前者がより高級といった位置づけになっていますが、個人的にはどちらもそれぞれの美味しさがあると考えます。

二八蕎麦や十割そばは、蕎麦本来の重たい食感と、蕎麦粉の旨みがあります。一方普通の蕎麦(使用率30%)には蕎麦の風味に加え、小麦粉の甘味、グルテンの弾力感が感じられるので、本当は別の食品と言うべきなのかも知れません。このように食品としての価値は、単に原材料価格だけで単純に割り切れるものではありません。

さぬきには「冬至そば」といって、昔から冬になり新蕎麦が入ると蕎麦を打っていましたが、これは蕎麦粉30%に小麦粉70%が基本です。関東の蕎麦からすると邪道かも知れませんが、これがさぬきの蕎麦です。この辺りの雰囲気は、郷土の随筆家山田竹系先生の随筆をご覧ください(#128)。まあ、色々と説明させていただきましたが、グルテンによる食感の特徴を少しでもご理解いただけたら幸甚です。