#307 TPPを考える・・・その①

新聞誌上で連日取り上げられているTPP問題について、少し考えてみました。改めて説明するまでもなくTPP(環太平洋経済連携協定)とは、参加する域内の国々は、原則として工業品、農業品、知的財産権、労働規制、金融、医療サービスなどをはじめとする全品目の関税を原則全面撤廃することです。つまり域内では全ての貿易が、国内流通と同じ仕組みで行われることになります。これは日本という国にとって、トータルで良いのかそうでないのか素人目にはわかりませんが、少なくとも大変革であることは容易に想像がつきます。

ビールやお米がスーパーで販売されるようになって久しいですが、この間に酒屋さんや米屋さんの数はかなり減ったように思います(というか激減しました)。たったひとつ法律が変わっただけで、これだけの激変があるわけです。よってTPPともなるとそれは国境を超え、また全ての分野が対象になるわけですから、その影響たるやどうなるか想像がつきません。

巷ではTPP推進派と反対派両陣営がそれぞれ名だたる大学教授、評論家などの論客を揃えて激論をかわしているので、一国民である私には、到底その是非を判断できる能力はないし、よって自信もありません。TPPの世論調査ではTPP交渉参加に賛成5割、反対3割という結果もありますが、これは第一次産業従事者数が極端に少ない現状を考慮すると順当な結果であろうと思います。ということで、ここではTPPの良し悪しはともかく、もしTPPが発効されたとしたら、小麦粉の世界ではどういう変化が起こるか考えてみました。つまり関税が撤廃されたら、小麦や小麦粉の流れがどうなるかのシミュレーションです。

農業的基盤が脆弱な日本では、現在、お米を筆頭に農作物は保護されています。そして小麦粉や小麦粉加工製品には比較的高い関税が課せられているので、小麦粉、パン、ビスケット、スパゲッティなどの輸入量は限定的です。一方、小麦は国家貿易品目として、つまり政府(農水省)の一元管理の下に輸入されています。少々説明が長くなりますが重要なことですので、現在の仕組みを簡単に復習しておきます。

日本では現在年間600万tの小麦が製粉され、その小麦粉がパン、うどん、ケーキなどとして消費されています。これは国民一人当り小麦で50kg、うどん玉に換算すると350玉、つまり毎日1個のうどん玉に相当します。そしてこの600万tの小麦のうち国産は約10~15%で、残りはアメリカ、カナダ、オーストラリアから輸入されています。業界用語では、国産小麦を内麦(ないばく)、輸入小麦を外麦(がいばく)と呼んでいます。話をわかり易くするために、外麦500万t,内麦100万tとしておきます。

外麦の生産コストは、30円/kg程度と、内麦の150円/kgに比べ極端に安く、価格差は約5倍あります。この一番の原因は、日本は狭小な農地が多いため耕作条件が不利なことで、その結果価格がどうしても高くなります。例えば、オーストラリアのマーク・アーウィンさ んは4200haの農地を耕作しています。2,3割の価格差なら、必死の努力によってなんとかなるかも知れませんが、この5倍という開きは、逆立ちしても縮めるのは不可能です。それほど日本と諸外国との農地には大きな差があります。では消費者は内麦を5倍高く買ってくれるかというと、NOです。最近は内麦の人気が上がってきたのは事実ですが、実際の売買価格は両者ともほぼ同じです。

つまりそのままでは内麦は売れないので、内麦には100円/kgの補助金をつけて実売価格は50円/kg程度となっています。一方、30円/kgで買い付けた外麦は、運賃等の諸経費が3円、そして更に17円を上積みし、製粉会社への販売価格は50円/kgとなって内麦とほぼ同じ価格になります。この差額の17円/kgはマークアップといって、内麦の補助金の原資になります。つまり外麦500万t分のマークアップは17円×500万t=850億円になり、一方内麦の補助金は100円×100万t=1000億円となり、両者はほぼ相殺します(実際は少し足りませんが)。このように小麦の世界の問題はその中で解決しましょうということで、この方式をコストプール方式と呼んでいます。

・・・続く。