#292 小麦粉の疎水性・・・水回しの重要性

「小麦粉って水とよく馴染むと思いますか?」と聞かれると、「はい」と答えたくなるかも知れません。だって、うどん、パン、ケーキなどの小麦粉製品は、全てと水とをこね合わせてつくるので、無意識に「水との相性はきっといいだろう」と思うのは当然のことです。でも実際はそうでもありません。

っで、簡単な実験をしてみます。コップに小麦粉を隙間がないように半分程入れ、そこにそっと水を注ぎます。すると水はどこまで浸透するか想像してください。 水を注いだ直後はそうでなくても、時間が経過すればかなりのところまで浸透すると思うかも知れません。しかし実際には画像のようにほとんど変わりません(小麦粉が妙な形をしているのはロック・グラスを使用したためです。すいません)。

 

一日経過しても中はこんなカンジ!

一日経過しても中はこんなカンジ!

この事実からわかるように、小麦粉と水というのはそんなに相性がよくありません。「水と油」ほどは悪くはありませんが、かなり意識して混ぜあわせないと均一にはならないことが、お分かりいただけると思います。水とよく馴染む性質を親水性が高いといいますが、逆に水と混ざりにくい性質のことを「疎水性」といい、小麦粉はどちらかと言えば「疎水性」のある物質ということになります。

さてここで手打ちうどんの作業手順を思い出してください。大まかな手順としては①水回し(混合)→②足踏み(捏練)→③寝かし(熟成)→④延ばしと進みます。今回注目したいのは①水回しと②足踏みとの関係です。特に水回しの重要性は、以下の新着情報で何度かご紹介しましたが、誇張しすぎることはありません。

新着情報#114・水回しと足踏みの役割・・・その①
新着情報#115・水回しと足踏みの役割・・・その②
新着情報#171・気泡はなぜできるのか?

繰り返しますが「水回し」と「足踏み」は目的が異なります。水回しは、あくまで塩水を均一に小麦粉の隅々にまで浸透させることが目的です。そして完全な水回しが完了することで、次の足踏み工程が生きてきます。つまり小麦粉中に水分が均一に行き渡っているので、「捏ねる」という作業によって、グルテンが最大限作りだされます。

もし水回しが不十分であれば、水分分布にムラができ、そのまま固めてしまえば、水分はもう動けなくなります。コップに注いだ水でさえ、一日経ってもほとんど浸透しないことを考えると、固めてしまえばますます水は身動きがとれなくなることは、容易に想像できると思います。やっかいなことは、水回しがうまくいってもいかなくても、丸めてしまえば同じように見えるので違いがわからないことです。尤もそれが水回し軽視の一因になっているとも考えらます。 生地を延ばしているときに、気泡ができるとの質問をときどきいただきますが、これも、不十分な水回し中にできた気泡がそのまま残っている可能性が一番高いと、個人的には思っています(#171)。

完璧な水回しは、完了した時点で、全体が均一な「そぼろ状」になっていることですが、そぼろの大きさは、気温が高くなったり加水量が多くなれば、その分大きくなります。逆に良くない水回しは、小麦粉の一部が大きな塊を形成し、残りが小麦粉のまま残ることです。そしてこれを無理やり一つの塊にしてしまうと、どうしても水分にムラができます。で、水回しがうまくいくヒントを2つ紹介していおきます。

①加水は「シャワー方式」を実践する。
最初に、全部の塩水を一度に「バッシャ」とかけてしまう「バケツ方式」は水分にムラができるので良くありません。それよりできればじょろのように、数多く細い穴から、少しずつ加水しながら、混ぜるとうまくそぼろの状態にもっていくことができます。
②そぼろ熟成を実践する。
そぼろの状態でも、それぞれのそぼろの中ではまだ水分にムラがあります。そこでこの状態で少しの間(数分~10分)放置しておくと、毛細管現象により、水分が小麦粉の中で拡散し、より均一な水分分布が実現できます。このそぼろ熟成は、「気温の低い冬場」や「低加水率でのうどん作り(#233参照)」において特にオススメです。