#171 (Q)気泡はなぜできるのか?・・・予備熟成の勧め

(Q)うどんの生地を延ばしているとき、生地が膨れることがあるがどうしてですか?

うどん生地を延ばしているとき、稀にお餅を焼いているように生地が膨れることがあります。原因は、生地の中に入っていた空気が、延ばしている間に暖まり、膨れるためです。膨れたら針で刺せば直ぐに潰れるので、何の造作もありません。風船の一つや二つできても、そんなにうどんの味に影響するとも思えないし、どうでもいいと言えば、どうでもいいことです。しかしできるときとそうでないときがあるので、気になると言えば気になります。またこれまでに、何度か同様の質問をいただいているので、結構気にしている方もいるかも知れません。

で、何でそうなるのかちょっと考えてみました。問題は、生地の中に製造工程のどの段階で空気が入るかです。可能性としては、大まかに2つあります:

① 「水回し」・・・小麦粉と塩水を混ぜ合わせる段階で空気が取り込まれる。
② 「足踏み」・・・生地を足踏みして延ばし、それを折りたたむ時に空気が一緒に入ってしまう。

一見、②の「足踏み」工程でなるような気もしますが、実際は①の方が可能性が高いように考えます。試しに、①の水回しをわざと雑にやってみると、画像のように再現性が確認できたので、少なくとも間違いではないか、っと。理由は次のように考えます。最初水回しのときに一度に塩水をかけてしまうと、斑(むら)ができます。塩水が多くかかったところは水っぽく、またかからなかったところは粉っぽくなります。それをそのまま捏ねて固めてしまうと、生地の中では塩水は動けなくなり、粉っぽいところは、ずっと粉っぽいままになります。これをそのまま熟成させ延ばすと、生地がだんだんと暖まってきて、中の空気が膨れると考えると合点がいきます。

新着情報#114#115でも触れましたが、うどん作りにおいて「水回し」と「捏練(ねつれん)」とはキチンと分けて考えた方がいいと思います。水回しの目的は、塩水を小麦粉全体に均一に浸透させることです。捏練は、それを捏ねることによって、水と小麦粉のたんぱく質(グルテニンとグリアジン)が加水分解して、グルテンができ、それが網目構造を形成してしっかりとした生地を作ります。いくら捏ねても最初の水回しが不十分だと、グルテンはうまく形成できません。

水回しがうまくできたかどうかの判断材料として、「そぼろ状」になっていることが挙げられます。これがそぼろ状ではなく、小石ばかりになってしまうと、どこかに塩水が偏っていることになります。この水回しの完成例は、小田聞多先生HPの動画を是非ご覧になってください(お勧めリンクの2番目をクリックしてください)。一見の価値はあります。そぼろは上手くできてもできなくても、丸めてしまえばわかりません。しかし、後のうどんには大きく影響するので、この工程は大切に考えてください。

あと補足になりますが、そぼろが完成した時点でも、まだ水分が隅々まで充分に浸透してはいません。浸透するには少し時間がかかります。ずっと昔に理科の実験で「毛細管現象」ってやりましたよね。吸い取り紙が重力に逆らって水を吸うのも毛細管現象です(とどこかに書いていました)。また小麦粉も同じで、ふわふわした状態で中に空気が入っていると、水が浸透しやすいくなります。小麦粉が古くなってダマができたり、硬いものの下敷きになって固まってしまうと、浸透しにくくなります。よく料理の本で、小麦粉を使うまえに「ふるいにかけてください」という表現がありますが、これも空気の通りを良くして、水が均一に浸透させるためです。

繰り返しますが、一旦固めて生地にしてしまうと、その中では水分の移動がしにくくなります。よって、できればそぼろの状態で暫く放置させて(10~30分)、水を浸透させるのがベストです。この状態での熟成を、予備熟成またはそぼろ熟成といいます。また温度が低いほど、浸透するのに時間がかかるので、冬は予備熟成の時間は長めにとります。また予備熟成の効果が顕著に表れるのも気温の低い冬場ですそういえば、気泡ができるというのお問い合わせも、冬場の方が多いような気がします。