#156 2008年度産「さぬきの夢2000」のポイント

「今年の『さぬきの夢2000』は従来よりもタンパクが少ないようです」と前回お伝えしましたが、その後、「さぬきの夢2000」を10箇所程度サンプリング調査した詳細なデータが届きました。結果は、平均して小麦でのタンパク質含有量はH19年度が8.5%に対し、H20年度は8.0%と0.5%低く、やっぱり今年の「さぬきの夢2000」は、少し慎重にうどんを打った方がいいようです。

これまで数回、打ってみた感じでいうと、確かに例年よりも生地の状態では、少し脆いような気がします。だからといって、ゆでて切れることはなく、しっかりとした「さぬきの夢2000」特有の旨みのあるうどんができます。よって「団子→延ばし→切る」の工程をできるだけうまくクリアーすることが、おいしい「さぬきの夢2000」うどんを作るポイントになります。以下この点を中心に考えてみます。

(1)塩度の違いによる延び具合の違い
打ったときは気温は30℃あたりでかなり暑めでした(2008.9.18)。水回し終了後、そぼろ熟成を30分。そして適度の足踏みの後2時間熟成後、「圧延→切り」。次の3つの条件で打ってみました。一般的には、気温30℃においては①塩度13%あたりが標準ですが、それより濃いめの15%と17%も試してみました。理由は、塩が多い方が粘弾性が増すからです(新着情報#111)。データは少し古くなりますが、「うまいうどんづくりのポイント」(香川県農業試験場機関誌「豊穣」、多田正敏氏、1971)を見ると、生地の粘弾性を最大にするのは、加塩率(食塩の重さ÷小麦粉の重さ)が8%あたりであるという報告があります。

塩水濃度 小麦粉 食塩 加水率 加塩率
①塩度13% 300g 18g 120g 46% 6%
②塩度15% 300g 21g 120g 47% 7%
③塩度17% 300g 24g 120g 48% 8%

 

結果としては、どれもきれいに問題なく延びましたが、①<②<③の順に、生地がしっかりしていたように感じました。ただし、粘弾性が大きくなるので、それだけ延ばすにもエネルギーが必要です。また塩をもっと増やすと、生地は更にしっかりするかといえばそうではなく、入れすぎると逆に脆くなるので、粘弾性を最大にするのであれば、加塩率は7~8%あたりが限界のようです。

(画像①)常温だと生地温度は29.4℃あり、きれいに延びる(下画像④)。

(画像①)常温だと生地温度は29.4℃あり、きれいに延びる(下画像④)。

(2)生地の温度による延び具合の違い
夜、生地を仕込み、一晩寝かし、翌日延ばす方もいます。気温の高い夏場は、常温で熟成させると生地がだれてしまう(軟らかくなりすぎる)ので、冷蔵庫の野菜室に放り込む人もいますが、このときは少し注意が必要です。というのは、野菜室で冷えてしまった生地は、取り出してもなかなか元に戻らず、また表面は戻ったように見えても中心部分は冷えていることが多いので、最低でも2時間は放置する必要があります(画像②、③)。

実際、上記(1)(常温2時間熟成後)での生地はどれも、ひび割れすることなくきれいに延びました(画像④)。しかし①の状態で野菜室に放り込んで、とりだした生地は、温度が充分に戻らないと、途中でひび割れたり、また周辺部分が荒れたりして、みるからに脆そうな感じがします(画像⑤)。また長時間熟成の弊害のひとつとして、グルテンの劣化も懸念されます。よって温度だけでなく、時間の経過による生地の劣化もあるので、たんぱくの少ない小麦粉の場合は、熟成時間を長くとりすぎないことが大切です。前回も触れましたが「宵練りはいかん。あれは麩がですぎる」といった先人の教えは、このあたりのことを指しています。

以上、塩度や温度などの設定を変えてみての、「さぬきの夢2000」を打つときのポイントをまとめてみました。

①塩水濃度は13%以上に設定する。
②そぼろ熟成をおこない(冬場は特に)、水回しを完全におこなう。これによりグルテンの網目構造が最大限に形成されます。
③熟成は数時間にとどめ、また熟成中は生地の温度が下がらないように気をつける。

(画像②)野菜室から取り出し直後は7.9℃。

(画像②)野菜室から取り出し直後は7.9℃。

(画像③)2時間経過してようやく、22.6℃。

(画像③)2時間経過してようやく、22.6℃。

 

(画像④)充分な温度であればきれいに延びる。

(画像④)充分な温度であればきれいに延びる。

(画像⑤)生地温度が低いと、同じ小麦粉でもきれいに延びない。特にたんぱくの低い小麦粉は要注意。

(画像⑤)生地温度が低いと、同じ小麦粉でもきれいに延びない。特にたんぱくの低い小麦粉は要注意。