#014 さぬうどん存亡の機(さぬきうどん不正表示問題について)・・・Part3

事件の背景
そもそもこの問題となった「大地」というJAのブランドは当初「さぬきの夢2000」を使用するためにつくられたものではありません。実は以前、香川では「ダイチノミノリ」という小麦品種が栽培特性に優れ、また品質が良好であったことから1988年に県の奨励品種に採用され、1990年から作付が始まりました。そしてこの品種にちなんでつけられた商品が「大地」シリーズです。つまり、「ダイチノミノリ」を使用した商品として「大地」シリーズが発売されたのです。そしてよりよい品種を目指して「ダイチノミノリ」はその後、1998年には「チクゴイズミ」に、そして更には2001年には「さぬきの夢2000」へとバトンタッチされます。

「さぬきの夢2000」は確かに香川の内麦としては出色の出来ですが、低たんぱく性がその欠点であることは既に説明しました。そして、これは「さぬきの夢2000」に限ったことではなく、内麦一般に共通の性質であり、「ダイチノミノリ」も同様です。ということは、「ダイチノミノリ」で手延そうめん、うどんを製造してもASWの小麦粉のように延ばしていると、「ぶちっ」と切れてしまうのです。よって低たんぱくの内麦粉で手延そうめんを作ろうとすれば、ゆっくりとまた丁寧に延ばさないと製品ができず、作業効率が極端に悪くなります。一言で言うと、内麦は低たんぱく故、グルテンが充分に形成されず、手延の製法には不適なのです。「でもそんなこと言っても、昔は内麦しかなかったし、それで手延そうめんをつくっていたではないか」という意見もご尤もです。しかし、現在では手延そうめんとはいっても、各工程においては機械化が進み、低たんぱくの内麦ではそれに対応できないのです。言い換えると、誰もがASWの作業性に馴染んでしまって、もう元には戻れないのです。

それで本当は内麦粉を使用しないといけないけれど、作業性があまりに悪いので、徐々にASWをブレンドするようになったと考えられます。そして、それが「チクゴイズミ」、「さぬきの夢2000」と切り替わっても、使用する小麦粉はASWが主体であり続けたことは容易に推測できます。つまり、どんな表示をしていたのかはともかく、ASW主体の小麦粉を使用していたと思います。でも、昔は表示については今ほど厳しくなく、至って寛容でした。実際、原料に何を使っていようが、袋の表面に大きく「讃岐内麦粉使用」と書かれた商品はいくらでもありました。というか、昔は販売促進のためのキャッチコピーとして「何でもあり」だったのです。

つまり次のように考えることができます。製造者は以前から同じことを続けていた。ただ時代が変わり、品質表示に対する世間の要請は厳しくなり、特に不正表示についてはその責任を厳しく問われることになった。今や消費者は食の安全・安心に対しそれだけ敏感になっているのです。しかし、当事者たちはそれを充分に認識できず、世間との感覚がずれてしまった。その結果、今回の不正表示事件に至ってしまった。