#584 日EU・EPAの行方

f583日本とEUの経済連携協定(EPA)が大枠合意したことはご存知のことと思います。日経新聞(2017.07.19)にわかり易い記事がありましたので、備忘録を兼ねてご紹介いたします。EPAの合意内容は多岐にわたりますが、ここでは我々製粉産業に関係するパスタに限定します。元々伝統食品ではなかったパスタの需要はゼロでしたが、パスタ元年と言われる1954年から消費がグングン伸び始め、現在は1980年の2.2倍となる27.8万tが消費されるまでになりました。

一方、かつて36万tの需要があった乾麺は直近では20万tを割り込むまでになりました。ただこれはパスタが乾麺よりも美味しいということではなく、乾麺もパスタもどちらも美味しく、食の多様化が進んだ結果です。さてパスタの日本国内で消費されているパスタの生産国をみてみると、国産と輸入がほぼ半々。輸入パスタの半分がイタリア産、そしてトルコ産、アメリカ産と続きます。パスタの本場イタリア産が多いのは当然として、続くトルコ産は以外に感じるかもしれません。しかしトルコは業界では知る人ぞ知る、小麦大国です。

現在、日本で製粉される小麦600万tのうち500万tはアメリカ、カナダ、豪州から輸入されていますが、その小麦価格には17円/kgのマークアップといわれる関税が課せられます(蛇足ながら500万t☓17円=850億円が、生産コストの高い国産小麦の補助金として充当されます)。この輸入小麦の中のデュラム小麦を製粉してパスタ原料である小麦粉(正確にはセモリナ)に加工しますが、歩留りなどを考慮すると、小麦粉の国際価格とは、ざっと30円/kg位の開きがあると考えます。つまり日本の小麦粉は、国際価格より30円/kg程高いということになります。

こういう事情を考慮してか、輸入パスタには30円/kgの関税が課せられています。つまり日本のメーカーは国際価格より30円/kg高い原料を使用するので、輸入パスタには同等の関税を課せば、国内パスタメーカーの競争力が維持できるだろうという考えです。しかし現実には、既に国内消費量の半分がイタリアやトルコなどから輸入されています。イタリアはパスタの本場故、その品質の良さに加えて、スケールメリットによるコストダウンが可能であるため、それが日本の市場に浸透している理由でしょう。

さてここからが本題です。日EC・EPAが発効すると、現在30円/kg課税されている関税は、11年かけて段階的に削減され最終的には撤廃されます。具体的にはイタリア産パスタは、通関時の価格はおよそ170円/kgですが、これが最終的には140円に下がります。市場の50%を輸入パスタが占有している現状を考えると、輸入パスタ30円/kgの値下げは、国内パスタメーカーとっては更に大きな影響は与えることは必至です。ただでさえ強いチームと野球の試合をしているのに、更に3点位ハンディをあげるようなものでしょうか。

問題はこれ以外にもあります。もしTPPが発効していれば、加盟国から輸入されるパスタの関税も30円/kgから段階的に最終的には撤廃される予定でした。しかし鶴の一声でTPPはポシャってしまったので、将来は全くの不透明です。つまりこのままであれば、EUからだけ安価で良質のパスタがじゃんじゃん輸入されることになるかもしれません。新聞記事は「政府・与党内には小麦などの事実上の関税を引き下げる案もある。だが農業振興費への影響もあり、具体策はみえない。」と締めくくっていますが、全くその通りだと思います。業界関係者は、もやもやとした気分の中で、今後の展開を注意深く見守っています。

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