#321 小麦粉のタイプ⑤・・・強力粉・中力粉・薄力粉

讃岐では昔から「土三寒六常五杯(どさんかんろくじょうごはい)」という有名な口伝があります。これはうどん作りにおける塩水の調合方法のことで、茶碗一杯の塩に対し、夏場は三杯、冬場は六杯、そして秋冬は五杯の水で薄めた塩水を使用しなさいということです。塩にはグルテンを強靭にする効果があるので、夏場の暑い時期には生地が柔らかくだれるのを防ぐために塩を多くします。逆に冬場は気温が低いので、生地が硬くなりやすので、その分塩を減らし、それ以外の春秋は、その間で調合しなさいということです。

尤も現在、この比率で塩水を調合すると、塩分濃度が大きくなりすぎてなかなか生地が延びません。この理由は当時と現在との塩の純度の違いです。現在の塩の純度はほぼ100%であるのに対し、明治末期の塩は水分が多く含まれていて、純度は70%程度であったとの記録があります。よってこれ位の塩を使うと、土三寒六常五杯の調合でうまくいきます。いずれにせよ夏場は生地が柔らかくなりやすいので、塩を多くして生地をしっかりさせます。逆に冬は寒くて生地が硬くなりやすいので、塩水濃度を下げてやります。

エキステンソグラフを使うと、こういった作業条件の違いも視覚的に確認することができます。次の例は、すべて塩水濃度13%、加水率50%で生地を練ったときに、温度だけが異なったときのエキステンソグラフの結果です。つまり作業環境でいうと、(A)が夏、(B)が春・秋、そして(C)が冬になります。そして(B)が標準だとすると、夏は山が低いのでそれだけ抗張力が小さく、その結果生地がだれやすいことがわかります。逆に冬の抗張力は針が振り切れるくらい大きくなり、これでは生地が簡単には延びないことがわかります。

では夏場の生地がだれやすいときにはどうすればいいかというと方法は2つあります。一つは塩水濃度を上げること(図(A1))、そしてもう一つは加水率を下げること(図(A2))で、このようにすると山の高さが適正水準になり作業条件が良くなります。ただ前者の場合はちょっと塩が多いので、うどんが「ぷりぷり」とした食感に仕上がるでしょう。よって生地が軟らかすぎるときは、塩を増やすか水を減らすかのどちらです。同様に冬場は生地が硬くなるので、方法としては塩を減らすか(図(C1))、それとも水を増やすか(図(C2))の何れかになります。

また生地を寝かし過ぎて(過熟成)、柔らかくなりすぎることがありますが、この場合は「鍛え直し」という作業を行います。これは生地を再成型、つまり軽く捏練してやることによって、熟成前の状態に復帰します。つまりダレていた生地が、鍛え直しによってしっかりしますが、これが「再成型による抗張力の増大」です(画像参照)。

そして最後に例をもう一つ。ラーメンの麺はうどんに比べて「ぷりぷり」しています。これはうたんぱく質の多い準強力粉を使用していることも理由ですが、それ以上に「かんすい」を使用していることに原因があります。小麦粉を食塩水で練ると、抗張力、伸長力共に大きくなりますが、かんすいで寝ると、抗張力が更に大きくなるのに対し伸長力は逆に小さくなります。つまりこういう生地は引っ張るのに大きな力が必要ですが、一旦延びはじめると直ぐに切れてしまう粘りのない生地で、これがラーメンのぷりぷり感の理由です。よってうどん用の小麦粉でも、かんすいで練ると、ラーメンのような食感が出せるし、実際中力粉でラーメンを作っているラーメン屋さんもあります。