#261 人類の重みにきしむ「命の糧」・・・小麦の将来①

最近また何かと、小麦の国際情勢が慌ただしくなってきているような気がします。そんな折、AP通信の記者であるハンリーさん(Charles. J. Hanley)の小麦についての興味深い記事が目にとまりました。年の瀬を迎えてちょっと重苦しいテーマではありますが、こういう考え方も参考になるのではと思い、数回に分けてお届けしたいと思います。

 

【’Staff of life’ wavers under weight of humanity】
メキシコ中部の火山地帯からカナダの大草原を越え、ぐるっと回ったインドの北部平原にかけた地域は、人類が太古の時代から様々な穀物を耕作してきた地域だ。ところが近年、小麦については言えば、かなり深刻な状況を迎えつつある。増大する飢餓を満たすために小麦の収量が追いついていないのだ。ここ最近の傾向である気候の高温化によって穀物の成長は妨げられ、アフリカ発の深刻な「小麦サビ病」は、史上最高にまで広がった世界の穀倉地帯にとって重大な脅威となりつつある。

シカゴ、ロンドンなどの金融市場では、小麦相場は様々な情報や投機家達によって撹乱され、今や高騰したパンは貧困層にとっては容易に手の届かない存在になりつつある。

タボアダさんはメキシコのトラスカラ州の小麦農家だ。適期を迎えた農場では、たわわに実った小麦が風に揺れているのに、彼の表情はなぜか冴えない。それは小麦の病気や、高騰してしまったまま価格の下がらない燃料や肥料のことが心配だからだ。「私達は小麦を育てるのが大好きだし、それはまた素晴らしい仕事だと思っている」と彼や息子たちは言う。「しかし子供たちがこれからも将来続けていくには、それはある程度収益性のある仕事であることが必要だ」。

一方メキシコの遙か北方に位置するカナダの農家であるペナーさんは、だんだんと情熱を失いつつある。マニトバ州にある彼の770ヘクタールの小麦畑を前にして、彼はこう言う「今年はきっと例年の半分しか収穫できないだろう。小麦の収益性は、もはや他の穀物よりずっと低いものになってしまった」。

9月下旬、鰻登りの小麦価格を心配した農業関係者たちは、急遽ローマに集まり小麦の将来をテーマに討論した。今年、歴史的な干ばつによってロシアにおける小麦栽培は致命的な打撃を受け、7月以来世界の小麦価格は50%以上昇した。モザンビークでは高騰したパン価格に端を発した暴動に揺れた。2008年には今回以上の世界的な穀物相場の高騰が起こったけれど、今年もだんたんと当時の状況に似てきた。

9月24日の会議の後、FAO(国際連合食糧農業機関)は、穀物相場とは直接関係のない投機家筋の動きに警戒する必要があるとの考えを示した。しかし専門達の意見としては、これまでのところ2008年のような動きは見られないと報告した。しかしながら同日、FAOは次のような警告も発した:「今回の価格上昇は、例えば8000万人の人口の半分が政府援助によるパンを頼っているエジプトなど、小麦の多くを輸入に依存している国々にとっては、輸入代金の支払いが大幅に増え、大きな負担増となるであろう」。

FAOの穀物部代表は、「この穀物高は今後長期化するであろうと予想され、私たちはこの穀物価格高に対応していかなければならない」と言っている。また小麦価格は、今後2005年もしくはそれ以前の低水準に戻る可能性はあるかの問に、「その選択肢はもはや無いだろう」と答えた。

FAOによると、2050年には90億人と予測される世界人口を養うには、世界中で今後40年間に70%の食糧増産を達成する必要があるという。しかし現在でも、最貧国では小麦が重要なたんぱく源であるにもかかわらず、充分に供給されているとは言えない。世界人口は毎年1.5%ずつ増加しているにもかかわらず、単位面積当たりの小麦生産量は1%以上落ち込んでいる。アメリカ合衆国における小麦の生産効率は1990年代にピーク付けて以来減少傾向だ。

紀元前7000年以来、小麦はずっと私たちの胃袋を満たしてくれた。しかし一足飛びに上昇する小麦価格、伸び悩む小麦の生産高、そして今日の気候変動などをみていると、このような状況が今後も続くとは思えない。そしてエジプトやインドといった大消費地においては、その代替食糧も容易に見つからない。 
現在、将来の穀物生産指針を作成するにあたり、最前線の小麦研究者たちは、「人類は食糧安全保障の問題に直面している」ことを認めざるをえない。

【以下続く】