#207 香育20号&21号の製粉適性および後継品種としての適性

灰分は小麦(もしくは小麦粉)を高温で燃やしたときに、残る灰の量のことで、小麦粉の重要な指標の一つです。一般にこの値が低い方が、色調に優れ、またうどんにしたときも食感が滑らかになるので、小麦粉のグレード(等級)が高いことになります。 そして小麦の大きさとの関係で言えば、粒の大きい方が、相対的に表皮部分の割合が小さくなるため、灰分も低くなる傾向があります。しかし香育20号と香育21号を丸ごと比較すると、香育20号の方が粒径が大きいにもかかわらず(画像では苦しい?)、灰分が多くなっています。この理由としては、香育20号は褐色で硝子質粒(硬質系)であるのに対し、香育21号は白くて粉状質粒(軟質系)であるからと考えます。

ちょっと専門的になりますが、一般には硬質小麦は、タンパク質を多く含み、その胚乳部分は硬い硝子質状になっているのに対し、軟質小麦はその逆で、タンパク質は少なく、その胚乳部分は軟らかい粉状質になっています。そして硬質小麦は主としてアメリカ、カナダが産地で、それから採れた小麦粉はパン用に使用されます。一方、軟質小麦は和菓子、麺用に使用され、日本で採れる小麦の多くは、気候や土壌の関係で軟質小麦です。つまり、軟らかい粉状質小麦である香育21号の方が、より内麦らしいということになります。

両者の違いは製粉工程においても顕著に表れます。一般に製粉工程においては、コース・セモリナ(Coarse semolina = 胚乳の大きな粒)が多い程、良質の小麦粉が多くとれます。単純にコース・セモリナだけで比較すると、香育20号の結果が良好でしたが、それは小麦の硝子質によるものと考えます。つまり最初に小麦を粗砕きする段階で、胚乳が硝子質なので、胚乳の固まりが崩れにくいけれど、軟質系の香育21号は粉砕され易く、そのためコース・セモリナが少なくなります。

では少なくなった分は、どこにいったかといえば、それは製粉の初期段階(1B、2B工程)で粉砕され、小麦粉になったしまったようです。#161で説明したように、1B、2B工程は小麦を大きく引き裂き、セモリナをとるのが目的で、上がり粉(小麦粉)をとることではありません。その理由は、初期段階では、小麦のふすま片(皮の部分)やクリーズ(小麦の縦に走っている溝)に溜まっている不純物が混じって、品質が落ちるからです。しかし「あばたもえくぼ」でコース・セモリナが少ないのも内麦らしい特徴といえばそうです。そして最終的には、両者とも小麦粉の歩留まりは同程度の60%になりました。

小麦粉に水を加え、かき混ぜながら加熱すると、でんぷんが徐々に糊化を始め、粘性がでてきます。アミロ値はこのとき示す最高粘度のことです。このアミロ値はうどんの食感に影響し、大きいほど「もちもち感」がでる傾向にあります。香育21号は「さぬきの夢2000」と同程度にアミロ値が高いので、そのうどんはもちもち感があり、一方香育20号はASWに良く似た歯切れのよい食感になります。一般に国産小麦はアミロ値が高い値を示す傾向にあります。

以上により、小麦の性質、製粉適性、うどんの特徴のどれについても香育21号の方がより内麦らしい特徴を備えています。純粋に香育20号と香育21号の二者択一であれば、両者は性格がまるっきり異なるだけに難しい問題です。現時点ではっきりしていることは、どちらかが幻の小麦になるということだけです。