#246 全粒粉とグラハム粉

これまで何度かご紹介したように、小麦粒をそのまま挽き込んで粉にしたものを全粒粉といいます。全粒粉は、食物繊維やビタミンなどのミネラルが豊富に含まれていて理想的な食材の一つですが、これだけでパンを焼くとごわごわして、膨らみも充分でなく、食味もいまいちなところが課題です。よって通常は普通の小麦粉と混ぜて使用することが多いようです。また全粒粉とよく似たものに「グラハム粉(Graham flour)」があります。これは全粒粉ほど認知されてないので少し説明したいと思います(実を言うと、私も聞いたことはあるけど、良くは知りませんでした・・・)。

まずグラハム粉の定義ですが、次のようになっています:「小麦を胚乳部分と表皮部分(胚芽も含む)に分けて、胚乳は普通の小麦粉と同じ細かさで挽き、表皮部分は粗挽きにして、その後両者を混ぜあわせたもの」。つまり全粒粉みたいなものですが、その粗さが異なり、全粒粉よりもずっとザラザラしています。普通の強力粉、全粒粉、そしてグラハム粉の外観は下の画像をご覧ください。で、その名前は、1829年にシルベスター・グラハム氏(Sylvester Graham, 1794-1851)がこの小麦粉を発明したことに由来します。

生来病弱だったことが動機付けとなったのか、グラハムさんは生理学や健康学を研究するようになり、その内に当時としてはほとんど馴染みのなかった菜食主義を提唱するようになります。雄弁家であったお陰で、彼の実践する食育は、またたく間に「グラハム方式」として人気を博するようになりました。彼は薬を使った病気治療に反対し、コーヒー、紅茶、過労、肉類、酒、タバコなどの刺激物を嫌い、間食をとることを戒めました。そして代わりに野菜や果物類の摂取(特に調理してないもの)、硬いマット上での充分な睡眠、冷水でのシャワー、6時間毎の規則正しい食事、身体を締め付けないゆったりとした衣類、談笑しながらの食事などを提唱しました。

確かに身体に良さそうなカンジはしますが、ここまで細かく規定されると、却って調子を崩しそうな気がしないでもありません。しかし彼は徹底して彼の健康哲学である菜食主義を推し進めました。そして彼の食育改革の根幹を成すものが、このグラハム粉で焼いた自家製のパンを食べることでした。グラハム粉は現在でも販売されていますが、どこでもというわけではありません。全粒粉ならスーパーの小麦粉売場でたまに見かけることがありますが、グラハム粉は普通のお店にはまず置いていません。言ってみればこれが世間一般における全粒粉およびグラハム粉の評価であり人気度であると考えます。なぜでしょう?

これは個人的な意見ではありますが、全粒粉はそれだけで使用すると、「小麦臭さ」が気になります。またグラハム粉は表皮部分が粗挽きなっているので小さな塊を多く含んでいます。そしてこの塊は調理中に溶けることはなく最後まで塊のままなので、噛んだときに歯にコツンと当り、不快感となります。これは胚乳の塊がそのままの状態で熱処理されて固まったからです。実際グラハム粉を買うと、その袋の裏面には注意書きとして、「熱湯でふやかしてからご使用ください」という表現を見かけますが、これはそういった問題点を回避するためです。

ところでグラハム粉の製造工程で一つ気になったことがあります。手順として、「最初に胚乳部分と表皮部分を分けろ」と簡単に書いてありますが、小麦の表皮は胚乳部分にびっしりとこびりついているので、これは容易なことではありません。実際、近代製粉における最大の成果は、表皮の断片の混入をできるだけ防ぎながら、胚乳部分の抽出が可能となったことで、この技術が確立されたのはここ数十年のことです。 こういった背景を考えると、当時石臼で挽いたグラハム粉には硬い粒々が多く入っていたことは仕方ありません。