#244 瀬戸内海国際芸術祭

7月19日は海の日、そして香川県では瀬戸内国際芸術祭が始まりました。これは2010年7月19日-10月31日までの105日間、瀬戸内海に点在する島々において、18の国と地域から75組のアーティストをお迎えして、皆さんに現代アートを堪能してもらいましょうという企画です。

会場は、直島(なおしま)、手島(てしま)、女木島(めぎじま)、男木島(おぎじま)、小豆島、大島、犬島(いぬじま)の7島と高松港周辺です。そして幸運にも、開幕の前日に日帰りツアーの機会がありましたので、行ってまいりました。全ては到底一日では回れるはずもなく、女木島→男木島→豊島の3島を駆け足で回ってきました。

今回、芸術祭の開催場所に、わざわざ交通の便の良くない瀬戸内の島々を選んだのには、理由があります。それはテーマに「海の復権」とあるように、かつては瀬戸内海で光り輝いていた島々がもう一度活力を取り戻すためのきっかけ作りです。近年、技術革新によって生活は便利になり、世界は小さくなり、人々は自由に行き来できるようになりました。しかし同時にそのグローバル化によって、私たちは効率化や均一化を選択してしまいました。そしてその流れの中で、効率化についていけないところ、つまり辺境の地や島々は世界から取り残されつつあります。かつては交通の要所であった瀬戸の島々の人口は減少し、高齢化が進み、活力は低下の一途を辿っています。

確かにグローバル化によって、私たちはどこにいっても同じコンビニで安心して買い物ができ、馴染みのレストランで食事ができます。しかしどこもかしこも金太郎飴状態になって便利にはなった反面、其々の地域に固有の伝統や文化が失われつつあるのも事実です。重要なことはこういう変化は一方通行で、一度失われてしまうと、元には戻らないということです。だから「私たちは文化の多様性をもう少し大事にせんといかん」というのが現代アートの通しての芸術祭の主張であるのかな、と考えます。実際、香川県だって他の地方と同じようにジリ貧が続いているし、早い話、首都圏に対しては地方は、程度の差はあるにせよ、すべてこれらの島々と同じようなものです。だから地方に住む私たちは尚更、多様性を尊重しなければいけません。今回のテーマは「海の復権」だけでなく「地方の復権」でもあるのです。

男木島・旧公民館

男木島・旧公民館

硬い話は置いといて、駆け足で回った3島は、今回の開催地では更に条件の悪いところです。特に男木島においては住居地域は、坂道ばかり、しかも道はあぜ道程度の広さしかなく、軽トラックさえも入れません。唯一の運搬手段は原動機のついた小型の三輪車で、これは今から何十年も前、子供の頃にみた風景そのものでした。こういった風景をどうすれば後世に残すことができるのか、私には皆目見当がつきません。しかし何とか行政には知恵を絞って名案をだしてほしいものです。

この内部はこうなっています!!

この内部はこうなっています!!

沢山見せていただいた展示物ですがひとつだけご紹介します。これはオスカール大島さんの作品で、男木島にある旧公民館内を全てカンバスにみたて、そこに瀬戸内海の厳しい生活と美しい風景を描きました。マジック1本だけのモノトーンで表現し、両壁は全面、鏡になっているので、その光景が何百メートルも続いているように見えます。私はこれが気に入りました。

 

 

 

 

 

ファスナー船進水式(画像は産経新聞より)

ファスナー船進水式(画像は産経新聞より)

他には、ファスナー船というのが、芸術祭の開催中、高松港と女木島間を運行します。文字通りファスナーの形をした船で、「それがどうしたの?別にボタンでも、ポケットでも、ズボン型でもいいんじゃないの?」と最初は思いましたが、実はファスナーでないといけないのです。作者の鈴木康広さんはヒコーキから見た船が、ちょうどファスナーに見えたことから、この着想を得たそうです(上のイラストをご参照)。船の航跡がちょうど海を開くように見え、なんとも言えずほのぼのとした良い気分になります。但しこれは実際に船にのるよりも、上空から見た方がその価値が良くわかりますよね。製作には船舶機械会社が協力されたそうですが、個人的には「大手のファスナー会社が全面的に支援してあげればよかったのに」、と思いました。

朝の9:00に高松港を出港して戻ったのが6時過ぎ。一日中、炎天下を歩きまわりどっと疲れましたが、その分根性もつきました。恥ずかしながら、香川にいながら普段行ったことがないところばかりで、ちょっと大袈裟ですけど、現代アートもさることながら改めて文化の多様性について考えさせられた一日でした。