#983 あなぶきアリーナ香川・ベルサイユ賞受賞

2025年2月24日に開館したあなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)は、同年3月1日・2日のサザンによるこけら落とし公演を皮切りに、本格的に稼働を始めました。その後も、ファッションイベント「東京ガールズコレクション」やプロジェクションマッピング、さらにはバスケットボールBリーグの公式戦などが開催され、香川県を代表する施設として、またベイエリアの新たなランドマークとして、順調にイベントやコンサートに利用されています。

さて、そのあなぶきアリーナが、2025年12月4日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)による「世界で最も美しい建築」を表彰する「ベルサイユ賞」の2025年スポーツ部門で最優秀賞に選出されました。同賞を運営する世界ベルサイユ機構は、あなぶきアリーナを「既存の広場や公園、港を一体化させ、街と海をつなぐ存在」と評価しています。また、「水平線に浮かぶ島々を思い起こさせる形状」は、まさに“ひょっこりひょうたん島”を想起させ、このアリーナは背後に広がる瀬戸内海の風景に見事に溶け込んでいます。

あなぶきアリーナ香川は、世界で活躍する建築家・妹島和世(せじま かずよ)さんと西沢立衛(にしざわ りゅうえ)さんによるユニット「SANAA(サナア/Sejima and Nishizawa and Associates)」の設計です。妹島さんによると、そのコンセプトは「美しい瀬戸内海と街並みをつなぎ、新しい風景と公共空間をつくることを目指した。さらに多くの方々が集い、親しまれる場所になることを願っています」とのことです。

手延そうめんやオリーブが特産の小豆島は、高松港からフェリーで北へ1時間ほどの場所に位置します。弊社は、手延そうめんの原料である小麦粉を通じたご縁もあり、小豆島とは昔からなじみが深く、年に数回訪れています。高松―小豆島間のフェリーは、瀬戸内海の島々の間を縫うように進むため、小豆島から戻る際には「おそらく、あのあたりが高松港だろう」と進行方向から推測するのですが、実際にはかなり近づくまで分かりませんでした。ところが今では、小豆島を離れて高松港へ進路を取ると、前方に小さいながらも、あなぶきアリーナをはっきりと確認することができます。

高松サンポート地区は、現在の高松港頭地区の愛称です。かつては本州への連絡船の乗り場であり、高松駅に到着した列車からは、一斉に乗客が飛び出し、席を確保するために連絡船を目がけて走ったものでした。席を確保すると、今度はうどん屋のあるデッキへダッシュ。特に帰省時、岡山側から乗船した際にデッキで食べるうどんの味は格別で、その一口で「香川に戻ってきた」と実感しました。瀬戸大橋開通以前は、この連絡船が高松と岡山を結ぶ主要な交通手段でした。そして、その時代を象徴する建築物が、丹下健三設計の「船の体育館(旧香川県立体育館)」です。

サンポート地区の再開発はほぼ終了し、現在では、あなぶきアリーナをはじめ、高松シンボルタワー、かがわ国際会議場、マリタイムプラザ高松などが集積するエリアとなりました。かつての面影はほとんどなく、隔世の感があります。その中でもアリーナはサンポート地区を代表する施設であり、ベルサイユ賞受賞を機に、今後ますます注目度と評価が高まることは間違いありません。新旧二つの時代を象徴する「あなぶきアリーナ香川」と「船の体育館(旧県立体育館)」。

香川県は、うどん県としてだけでなく、2010年に始まった瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)により、アート県としての存在感も年々高まっています。ベルサイユ賞を受賞したあなぶきアリーナは、まさにそのアート県を象徴する建築物となりました。そこに船の体育館が加われば、アート県としての面目躍如と言いたいところですが、残念ながら船の体育館は、解体工事に向けてのカウントダウンが始まっています。残念!!