#967 船の体育館(旧香川県立体育館)の運命はいかに!

丹下健三が手がけた旧香川県立体育館は、その和船をイメージさせる独特の造形から「船の体育館」として永年親しまれてきました。しかし耐震性が不十分とされ2014年9月に閉館。その後、県は耐震補強や大規模改修を独自に検討しましたが、いずれも巨額の費用が必要となり、当時は「費用対効果が低い」と判断され改修は見送られました。そしてその処理は棚上げにしたまま放置されてきました。

その後、2021年8月から10月にかけて県はサウンディング型市場調査を実施し、民間事業者から利活用案を募りました。その結果、9社10案の提案が寄せられましたが、いずれも実現可能性に乏しいと判断され、またもや不調に終わります。しかしいつまでも放ったらかしにするわけにもいかず、県と県教委は2023年に解体方針を表明。2025年3月には解体工事費約10億円を盛り込んだ予算案が県議会で可決されました。さらに同年8月7日には、県は、解体工事の入札情報を公表し、予定価格は約9億2000万円、工期は2027年9月までと示され、解体に向けて具体的に動き出しました。

一方で、保存を求める市民や建築関係者の声も根強く続いています。2025年7月には民間有志団体が「公費を使わず耐震改修を行い、ホテル事業などに転用する活用案」を提示しました。しかし県は、「実効性に乏しい」として、現時点では解体方針に変更はありません。もっとも、閉館や解体が決まると惜しむ声が一層高まるのは、閉店が決まった老舗のうどん店に行列ができる現象にも通じところがあるのかもしれません。

ただ、現状は2014年当時とは風向きが変わったようにも感じます。というのは、香川県は2010年に瀬戸内芸術祭を創設し、「海の復権」をテーマに現代アートによる地域再生を図ってきました。これは近代化の中で忘れられがちな瀬戸内の島々を、現代アートの力で活性化し、瀬戸内海を「希望の海」として再生させることを目指す取り組みです。瀬戸芸は以後3年毎に開催され、いまでは瀬戸内の島々を舞台に世界的にも注目される芸術祭へと成長しています。現在は瀬戸芸2025の夏会期真っ只中であり、香川県は「うどん県」であると同時に「アート県」としての地位も確立しつつあります。

このように考えると「船の体育館」はアート県の象徴たり得る存在になる可能性を秘めています。もし船の体育館が解体されてしまえば、これまで築き上げたアート県のブランドイメージが損なわれるかもしれません。以下はネットから拾ってきた数字ですが、これまでの瀬戸芸による経済波及効果は、111億円(2010)、123億円(2013)、139億円(2016)、180億円(2019)、103億円(2022、コロナ禍により減少)となり累計では、656億円にもなります。よって「船の体育館」を瀬戸芸のシンボルとして捉えるなら、その改修費は十分に価値があると考えることも可能です。

2014年当時の改修プランは、「コスパが悪い」と判断された船の体育館ですが、いまやその文化的・経済的波及効果を加味すれば十分に「コスパの良い」投資に変わるかもしれません。当時と比較すると、保存にかかわる費用は増加したもののその波及効果は遥かに大きく、費用対効果でみても十分に改修保存に値するという考えにも一理あります。「古いものは二度と作れない」。既に解体方針は決定してはいるものの、今一度再考すべきなのかもしれません。船の体育館の存廃をめぐって、いま改めてその行方がどうなるのかやきもきしながら注視しています。