#879 製粉工場見学@府金製粉

先日、本州最北に位置する製粉会社、岩手県の府金(ふがね)製粉㈱さんの工場見学の機会を得ました。工場見学は色々参考になることが多いので大好きですが、特に同業者の場合は、いやがうえにもテンションはあがります。自社とどこが違うのか、自社の工場に何が足りないのか、またどうすればもっと良い製品を作ることができるのか等々、様々な有用なヒントを得ることができます。さて「本州最北の製粉会社」には特別な意味がありますが、その理由を以下簡単に説明いたします。

現在、日本で製粉される小麦の85%はアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入小麦で、残りの15%が国産小麦となります。輸入小麦は、港のサイロに保管されるので、このサイロに近い方ほど、小麦の引取り運賃を節約することができます。製粉産業は装置産業であるため、各社ともできる限りコストダウンに努めます。そしてこの引取運賃は、立地条件により格差が生じるコストです。実際、新しく建設される大手製粉工場は、全て港に立地しています。加えて、小麦サイロに隣接しているので、トラックで運ぶ必要がなく、ボタンひとつで小麦はコンベアで直接工場に搬入されます。

このように小麦サイロと製粉工場が一体化されている製粉工場を、業界用語で「海工場」とよび、小麦を運搬する必要がある製粉工場を「山工場」いいます。よってたとえ港に近くても、小麦サイロからトラックで運ぶ製粉工場は、やはり山工場に分類されます。そして府金製粉さんは、典型的な山工場。使用小麦の半分程度は地元産ですが、残り半分は輸入小麦となり、小麦の種類によってははるばる600kmも離れた千葉港まで引取りにいきます。これはもちろんトラックによる引取り距離としては、最長距離となり、「本州最北の製粉会社」は原料引取りにおいて大きなハンディを背負っています。

このような不利な条件にもくじけず、健全経営を維持し続けられる理由は、地元産小麦を使用していることに加え、その高い製粉技術力です。実際、きれいにレイアウトされた製粉工場内には、ロール製粉機、シフター、ピュリファイアーなどの製粉機械が整然と並び、正に中小製粉の理想的な製粉工場です。

ところで粉もん県である岩手には様々な粉もんがあります。何と言ってもまずは「盛岡冷麺」。小麦粉と馬鈴薯でんぷんを同割で混合し、粉末の重曹を加え熱湯でまぜることで琥珀色の弾力感一杯の麺ができあがります。これを牛骨と鶏ガラを使ったコクのあるスープと合わせたのが盛岡冷麺です。「盛岡じゃじゃめん」は、釜揚げした麺に、肉味噌、きゅうりをトッピングし、おろしにんにく、ラー油、酢などで自分好みにアレンジします。「ひっつみ」は、盛岡版すいとんで、小麦粉生地を耳たぶ程度の硬さに練り、ちぎって薄く伸ばしながら、具材を煮込んだ鍋に放り込んでゆでます。「南部せんべい」は、八戸南部氏が藩主家だった旧八戸藩地域に伝承された焼成煎餅です。

そして何と言っても忘れてはならないのが、「わんこそば」。盛岡市発祥説と花巻市発祥説の両方が存在し、提供店舗も両市に散在しています。そばは普通で、どちらかといえばアトラクション的要素が強く、地元民には馴染みが薄いとも言われています。とはいうものの、一生に一度くらいは、ということでチャレンジしました。お店の説明によると、「おわん15杯=そば1玉」換算ということで、結果77杯は、そば5玉少々となり、お腹がパンパンになりました。また道の駅にも当然蕎麦屋さんがあり、そこではなんとお水の隣りにポットに入ったそば湯が置いてありました。ご当地では見慣れた光景だそうですが、うどん県の人間にとっては、カルチャーショックでした。

【盛岡の夜明け】