#848 柔めのうどん 讃岐に新時代

先日「柔めのうどん 讃岐に新時代」というタイトル記事が地方版に掲載されました。讃岐うどんといえば、「コシコシ、コシが命」みたいなイメージがありますが、最近は「モチモチ」、「ムニュムニュ」食感の柔らか麺が存在感をアップしているという内容でした。柔らか麺といえば九州うどん、大坂うどん、伊勢うどん、武蔵野うどんなどが連想されるのに対し、讃岐うどんといえば、コシが強く、噛むほどに弾力が感じられるイメージでしょうか。個人的には、食味が優先なので、味さえよければ、どちらのうどんも大好きです。

ところで「コシコシ」食感と「モチモチ」食感の違いはどこからくるのでしょう?もちろん水分を少なめにして、生地をしっかりこねると、剛麺に仕上がり、コシが強い麺に仕上がります。また伊勢うどんみたいにゆで時間を長くすると、うどんがゆで湯を吸収して、柔めなうどんになります。しかし小麦粉の原料である小麦の品種に着目すると、両者の違いをよりはっきりと理解することができます。

お鍋に小麦粉と水を入れ、加熱しながら、ヘラなどで撹拌し続けると、徐々に抵抗が大きくなってくるのがわかります。これは小麦粉の主成分であるでんぷんが水分を吸収するからです。つまり鍋の中のでんぷん粒の数は同じですが、一つひとつが水分を吸収して大きくなるので、鍋の中で押し合いへし合い状態になって身動きがとれなくなり、その結果ヘラの抵抗が大きくなります。これをでんぷんの糊化現象といいます(#271)。この粘度(ネバネバ度)は、時間と共に大きくなりますが、あるところで急に小さくなります。これは加熱し続けた結果、澱粉粒がもうこれ以上、水分が保持できなくなり、破裂してバラバラになった結果です。

つまりこの鍋の中の粘度の変化をグラフにすると右図のようになります。そしてこの粘度を「アミロ」という単位で表し、一番粘度の大きな値を「最高粘度」もしくは「最高アミロ値」といいます。この最高粘度は、穀物によって異なり、また同じ小麦でも銘柄によって異なります。ではこの最高粘度が何を意味するかといえば、この最高粘度が大きいほど私たちは、その小麦粉で打ったうどんが「もちもち」と感じるようになります。

でんぷんは、ブドウ糖が繋がってできた炭水化物で、正確にはアミロースとアミロペクチンという2つの成分から構成されています(#272)。前者はブドウ糖1000個位が一直線に繋がった比較的分子量の小さなもので、後者はアミロースが枝分かれして繋がり、ブドウ糖が数万~数十万集まった巨大分子です(画像参照)。つまり基本的にはどちらもブドウ糖が繋がったものですが、小さなものがアミロース、大きなものがアミロペクチンです。そしてアミロースが少なくなり、アミロペクチンが増えると、うどんの「もちもち感」がアップします。

アミロースが少ない(つまりアミロペクチンが多い)小麦のことを低アミロース系の小麦といい、「チクゴイズミ」や「さぬきの夢」という国産小麦は低アミロース系なので、うどんのモチモチ感が強調されるのに対し、ASWは低アミロースではないので、切れ味の良いすっきりとしたうどんに仕上がります。もち米でんぷんは100%アミロペクチン(つまりアミロース0%)なので、あれほど「もちもち」しているのです。

讃岐うどんがこれからどっちの方向に向かって進んでいくのかはわかりませんが、選択肢があるということは、うどんの多様性につながり良いことです。みなさんそれぞれ好きなうどんを選択すれば良いし、変化を求めて色々試すのも勿論アリです。結局、小麦でんぷんの旨味を引出したうどんであることが必須で、後は個人の好みにお任せすれば良いのだと思います。色んなタイプのうどんがあれば、讃岐うどんツアーもさらに楽しくなります。