#679 R1年産「さぬきの夢」大豊作

先日(2019.07.29)、R1年産「さぬきの夢」についての中間報告(香川県麦民間流通地方連絡協議会)があり、R1年産「さぬきの夢」生産量が発表されました。結論から言うと、今年は「さぬきの夢」生産開始以来、史上最高の大豊作(8,120t)となりました(なんと8,500t超という最新情報もあります)。しかも6,205t(H29)、5,847t(H30)、8,120t(R1)と3年続きの豊作で、これは過去にも例がありません。これは作付面積が、1,730ha(H29)、1,824ha(H30)、1,880ha(R1)と順調に伸びたのに加え、収穫時の降雨もなく天候が順調に推移したためです(下図参照)。

ここで改めて過去10年間の「さぬきの夢」生産量の推移をみると、今年が如何に大豊作であるかがわかります。(#467)には、H19~H26の生産量のグラフがありますが、10年前は年によってばらつきはあるものの、大体4,000t前後で推移し、中にはH21のように3,162tと極端に少ない年もありました。よって今年は、単純に2倍以上の収穫があったわけです。たくさん収穫されることは、嬉しいことですが、問題がないわけでもありません。

現在、内麦(国産小麦)は、播種前契約という、前年度に入札によって価格が決められる制度を採用しています。つまり需要と供給のバランスによって価格は決定されるため、希少銘柄はその希少性により、また品質が良くて人気の高い銘柄は、高値で落札される傾向にあります。下の表は、今年の内麦価格一覧です。「さぬきの夢」は73,186円/㌧(税込み)と、内麦の中で最高値となっています。つまり「さぬきの夢」は日本一高い小麦であると同時に、世界一高い小麦でもあります。

日本で一番生産量の多い、北海道の「きたほなみ」が64,752円/㌧、内麦全体の加重平均価格が61,714円/㌧なので「さぬきの夢」はずば抜けて高価であることがわかります。また日本で流通している小麦の90%を占める外麦(輸入小麦)の平均価格54,370円/㌧と比較すると、137%と突出して高価です。国産小麦は人気が高いため高価ですが、余りに高くなりすぎると、製粉会社にとって使い辛くなるのも事実です。つまり「高価な小麦⇒高価な小麦粉⇒高価なうどん」となり、それを消費者がどのように評価してくれるかにかかっています。

ただ世界一高価であることを除けば、「さぬきの夢」の大豊作は、私たちにとってはとてもありがたいことです。これを契機に「さぬきの夢」の更なる市場拡大を図りますが、これには「さぬきの夢」の品質向上も欠かせません。初代「さぬきの夢」である「さぬきの夢2000」は2,000年に讃岐うどん専用小麦として開発され、市場に登場しました。その一口噛んだ後、一呼吸遅れて広がる淡い甘みは、明らかに当時の主流であるASWのうどんとは一線を画し、これこそさぬきうどんの本来の味わいだと感じました。

ただ「さぬきの夢2000」にはひとつだけ問題点がありました。それはうどんの「つなぎ力」の源である、グルテンの粘弾性がASWより低いため、製麺適性に劣っていたことです。具体的には、製造時の加水量の許容度が低いために、加水の調整が難しいこと。また生地の熟成時間についても、ASWに対し許容度は低く、よって宵練りではなく朝練りが推奨されていました。そしてこれら許容度の低さは、全てグルテンの粘弾性の弱さに起因するものです。

そしてこの弱点を補うために2009年、「さぬきの夢2009」つまり「さぬきの夢」Ver.2が登場しました。2代目「さぬきの夢」は、初代に比べ製麺適性は確かに向上し、その評価も上々です。しかしASWと比較するとまだ改善の余地があるのも事実です。北海道では「春よ恋Ver.2」が登場間近です(#677)。「さぬきの夢2009」が登場して早10年が過ぎました。そろそろ「さぬきの夢」Ver.3が登場してもよい頃です。そして今度は食味だけでなく作業適性においてもASWを凌ぐ品種を期待しています。それが実現すれば、「さぬきの夢」の人気は更に上ること間違いありません。一日も早い「さぬきの夢」Ver.3の登場が待たれます。