#669 工場製麺 vs. 店内製麺

先日、H社のセルフ式讃岐うどん店が、この4月に千葉県松戸市にて500店舗目をオープンしたとの記事が地元紙に掲載されました。H社は2000年5月に高松市木太町にて創業。2002年には、当時まだ珍しかった讃岐うどんのFC展開に乗りだし、2002年9月には渋谷公園通り店をオープンし、東京進出を果たします。この2002年という年は、H社以外にも東京進出を果たした讃岐うどん店が、いくつもあり、いわゆるさぬきうどんブームの年でした(#543)。そして今回、創業20年の節目での大台達成となりました。

H社のうどんは、さぬきのセルフ方式なので、「旨い、早い、安い」と三拍子揃ったうどんであることはもちろんですが、それ以外の大きな特徴として、「工場製麺」があります。つまり香川県、千葉県、静岡県、北海道、沖縄県の5つの拠点に製麺工場を配置し、そこで製造した生麺を各地域の店舗に配送し、店舗でゆでて提供する、いわゆるCK(セントラルキッチン)方式です。「工場製麺」により、効率よく製麺することが目的です。

一方、H社とよく比較されるのが、同じくさぬきうどんをFC展開しているM社です。M社は、焼き鳥ファミリーダイニングからスタートし、2000年11月にセルフうどん1号店をオープンします。M社が先に有名になったので、M社は後発かと思いきや、ほぼ同時期のスタートです。店舗数では、当初H社が先行しますが、途中からはM社が一気に追い上げ、抜き去ります。M社の店舗数は、同一屋号では初めて500店舗を突破し、2019年3月時点では1,026店舗(国内816店舗+国外210店舗)となり、他の追随を許しません。

M社も、もちろん「旨い、早い、安い」の讃岐うどんを提供していますが、うどん店としての差別化は、そのウリである釜揚げうどんにあります。そして常に最上の状態の釜揚げうどんを提供できるよう、「店内製麺」にこだわります。つまり各店舗内に製麺機を設置し、毎日店内で小麦粉を練って製麺し、できあがったうどんをその場で茹で、最高の釜あげうどんを提供しています。

さてここで改めて工場製麺vs.店内製麺について考えてみます。どちらの方式でもFCうどん店として大成功を収めているので、ビジネスモデルとしてはどちらの方式も成り立つことは既に証明されています。ただ方式が異なるので、同じFCうどん店といっても、その運営方式はかなり異なり、その長短所も対称的です。たとえば「工場製麺」には次のような特徴があります:

【工場製麺の長所】
①拠点工場で製造したうどんを、各店配送するので、製造のコストダウンが可能。
②各店舗では、うどんをゆでて提供するだけなので、厨房スペースが節約可能。
③各店舗では、うどんを製造しないので、経験豊富な専門スタッフが不要。
【工場製麺の短所】
①店内製造では、打ち立てのうどんを使用できますが、工場生産のうどんは、製造後からゆでるまでに一定時間が経過してしまいます。

そして店内製麺の場合には、状況は逆になります。つまり店内製麺することで、打ち立てのうどんを提供することが可能ですが、その代償としてのコストアップは避けられません。製麺機の導入で、省力化は可能ですが、製麺機を効率よく運用するためには、製麺の原理原則を理解し、かつある程度の経験が不可欠です。よって人件費やテナント料の高騰に悩む首都圏のうどん店では、製麺機の導入をためらう事例もあるようです。FC展開をしないなら、原点に戻り、麺棒だけの純手打ちうどんを目指すのも一つの選択肢かもしれません。