#657 巨大化する世界最大の製粉工場

意外かも知れませんが、世界最大の製粉工場は、アメリカでもヨーロッパでもなく、インドネシアのジャカルタにあります。㈱ボガサリ製粉のジャカルタ工場は、生産規模及び工場サイズのどちらも単一製粉工場としては、永年世界一の座に君臨し続け、業界内では有名な存在でした。そして今、その巨大製粉工場が、更にスケールアップしたので、簡単にご紹介します。ちなみにインドネシアは人口世界第4位、そして小麦を100%輸入に依存しているのが、巨大製粉工場が誕生した一因かもしれません。

製粉工場は英語でミル(mill)といい、そのミルの規模は、1日24時間当たりの小麦の製粉能力で表します。例えば日本で大型ミルの標準は500tミルですが、これは24時間で500tの小麦を製粉することができます。年間300日間の操業とすると、15万tの小麦を製粉できます。現在、日本全体の小麦需要は600万t程度、よって単純に言うと500tミルが40工場あれば、大丈夫です。また同じ施設内に、複数のミルが存在するときは、アルファベット順に名前をつけるのが、習慣となっています。例えば3工場あるときは、Aミル、Bミル、Cミルとなります。

さてこのボガサリのジャカルタ工場には、なんと15のミルがあるので、それらはAミル、Bミル、・・・、Nミル、Oミルとなります。そして最近、IミルとJミルの処理能力が、800tから1,200tへと引き上げられ、Hミルは2019年秋までに、同様に800tから1,200tとなります。この結果、全体の処理能力は、11,650t/日へと引き上げられ、これは年間製粉能力がなんと400万t以上となります。つまりボガサリのジャカルタ工場だけで、日本の総需要の2/3が賄える計算になります。

インドネシアの小麦粉市場は堅調で、過去10年は毎年平均して5%ずつ成長しています。この成長の要因は、人口増、食生活の変化、そして中間所得者層の増加です。つまりインドネシアは、近年経済が堅調であるため、食の多様化が進み、より多くの人々が、パンやパスタを以前よりも多く摂取するようになった結果です。インドネシアの小麦需要は、現在年間850万トンですが、ここ数年の内に1,100万トンに達すると予想されています。現在、主食のコメの消費は1人当たり年間100kgであるのに対し、小麦粉は23kgとなっています。

2300名が働くボガサリの国内シェアは、50%と二位以下を大きく引き離していますが、2006年にはなんと70%もあったといいます。現在国内には27社の製粉会社があり、全体の小麦挽砕能力は年間1,180万tであるのに対し、2018年には640万tの小麦粉が製造され、全体としての設備稼働率は70%。製粉会社が5社しかなかった1998年に、小麦が自由化となり、以来市場の競争は激化したといいます。小麦の輸入先はオーストラリア、アメリカ、カナダですが(日本と同じ)、オーストラリアが干ばつに見舞われたときは、黒海周辺からも輸入したそうです。そして莫大な量の小麦を円滑に輸入するために、港にはポスト・パナマックスサイズが5隻、それ以外が5隻同時に接岸できる設備があります。ちなみにポスト・パナマックスとは、パナマ運河を通過できる最大のサイズであるパナマックスよりも更に大きな船舶のことです(よってパナマ運河は通行不可)。

ボガサリはこれほどの巨大工場であるにもかかわらず、タブレットで工場内のどこからでも管理できるといいます。とはいうものの維持管理には経験豊かな有能な製粉技師が必要で、全てを熟知しているからこそ自動運用が可能となる筈です。製粉された小麦粉の85%は、500g、1kg、2kg、5kg、25kg、750kgの袋に充填され、残り15%がバラ流通となります。目下の主たる課題は、小麦粉の配送方法の効率化です。というのは、インドネシアは、5つの主要な島と15,000もの小さな島々から構成されているからです。現在、小麦粉及び関連製品は、東南アジアを中心に7.55億ドルを輸出していますが、今後数年のうちに10億ドルを達成する予定です。思わずため息がでました。恐るべしボガサリ製粉。