#568 小麦粉の生食について

f568食品を煮たり焼いたりせずに、生(なま)の状態で食べることを生食(せいしょく)といいます。よって「小麦粉の生食」とは小麦粉製品を調理することなく「生」の状態で食べることを意味します。常識で考えると、うどんをゆでずに、またピザ生地を焼かずに食べることは、ちょっと考えられませんが、海の向うのアメリカでは、少し事情が異なるようです。

クッキーといえばアメリカの家庭では、おやつの定番です。また作り方も簡単なので、小さなお子さんのいる家庭では、自家製クッキーも珍しくありません。そしてできあがったクッキー生地を、天板に並べるときに、つまみ食いしたり、ボウルにくっついている生地の欠片をこそげて口に放り込んだりするそうです。生の状態ですが、バターや砂糖が入っているので、食味的には結構いけるらしく、クッキー生地の生食は、結構頻繁に行われているそうです。

こういう背景もあり、アメリカでは、稀ですが小麦粉の生食による健康被害が報告されたために、FDA(Food and Drug Administration = 米国食品医薬品局)は、「クッキー生地を生で食べないように!」と注意を喚起しています。健康被害の理由は、使用した卵がサルモネラ菌に汚染されている可能性があることに加え、小麦粉自体にも汚染の可能性があるからです。小麦に限らず畑で栽培される農作物には、収穫された段階では雑菌が付着しています。製粉工場に搬入された小麦は、精選工程で夾雑が除去され、きれいにはなりますが、特別な「殺菌工程」はありません。また小麦粉は加熱処理されてない状態では、消化が良くなく、よって小麦粉は生食には適してないということになります。

アメリカにおける生クッキー生地の人気は、日本にいると今ひとつピンときませんが、ハーゲンダッツには「チョコチップクッキー生地」フレーバーなるものが定番メニューとして存在します。またニューヨークでは、生クッキーのお店もオープンしていることからも、その人気ぶりがわかります。但し、これらの食材については、適切な下処理が施されているので、食害の心配はありません。

日本においては、「生クッキーの生地を食べる」といった「小麦粉の生食習慣」はありません。これまで健康被害の事例も報告されていないので、あまり心配する必要はないかと思います。そもそもうどん、パン、クッキー、ピザといった小麦粉製品は、十分に加熱処理をすることが前提として考えられています。小麦粉は水を加えて加熱処理するとでんぷんが糊化(こか)し、その結果消化が良くなり、食べやすくなります。逆にいうと加熱処理していない小麦粉は、消化されにくいので良くありません。

ゆでる前のうどんをかじっても、ちっとも美味しくありません。また十分にゆでないと中心部分まで糊化しないので、芯が残った硬いうどんになりますが、これをうどんのコシと勘違いする方もいるようです。十分にゆであがった直後のうどんは、中心部分の水分が50%であるのに対し、周辺部分は80%です。よってこの水分差により、噛み始めは軟らかいけれど、中心部分は硬く、その差がうどんのコシとなって感じるわけです。別の言い方をすれば、軟らかいけれども噛み切ろうとすると力がいるうどん、ということになります。そしてこれこそが「軟らかい中にもコシがある。」という一見矛盾したさぬきうどん独特の表現方法なのです。

いずれにしても、うどんは十分に加熱処理をし、糊化することで、小麦本来の風味を引きだし、もっちりとしたコシがでるようになります。よってうどんは「小麦粉の生食」とは関連はありません。話が逸れましたが、まとめると次のようになります。

【結論】
・小麦粉製品は、生の状態だと消化されにくいため、生食は控えましょう。
・必ず加熱処理し、糊化した状態(α化された状態)で食べましょう。