#559 ハードロック工業㈱見学

f559先日、ハードロック工業㈱さんを見学する機会に恵まれました。新幹線を利用する方なら、ドア上の電光掲示板に流れるその名前をきっと目にされているはずです。ここの会社のウリは、「ぜったいに緩まないナット」というキャッチフレーズでお馴染みの「ハードロックナット」で、これが主要製品、というかほぼ全量このハードロックナットだけを生産販売している、正に一点集中の会社です。因みに社名のハードロックはロックンロールのロック(rock)ではなく、「しっかりと締め付ける」という意味のロック(lock)です。

ボルトは通常品を使用。ナット部分だけの改良に特化し、楔(くさび)効果を利用した「緩まない」独創的なハードロックナットです。偏心加工を施した凸ナットと真円加工の凹ナットが対を成し、「絶対緩まない」ボルトナットを形成します。最初に凸ナットを締め、次に凹ナットで締めると、凸ナットの偏心部分が「くさび効果」を発揮し、振動や衝撃にビクトもしない「絶対に緩まない」状態を生み出します。原理の詳細に興味ある方は、会社サイトをご覧いただくことにして、ここでは若林社長様自らの熱い説明を独断でまとめてみました。

若林社長は大学卒業後、あるメーカーに就職。あるとき展示会で緩み防止のナットを見つけますが、自分ならもっと単純な仕組みの、より効果的なナットを開発できると確信し、28歳で脱サラを決意。しかしヒト・モノ・カネがないため、試作・制作は知り合いの町工場を夜間無償で借りあげ、昼間は営業・販売に精をだします。最初に考案・制作したナットはかなりの自信作でしたが、3ヶ月は全くの鳴かず飛ばず。凹んでいたところ、ようやく引き合いがあり、そこで一気に自信を取り戻り、最初に種まきした見込み客をくまなく再訪しながら、新規顧客を開拓します。

3年が経過し、ようやく経営は軌道に乗り、「緩みにくいナット」の販売は安定します。しかし「絶対に緩まないナット」への夢は捨てきれず、その後も開発を続け、ようやく41歳のときに現在の絶対に緩まない「ハードロックナット」の開発に成功します。その後、最初の会社は共同経営者に譲り、新しく現在のハードロック工業を設立。しかし新会社立ち上げ後は、思うように販売は伸びず、辛抱強く営業展開を続け3年が経過後、ようやく目処が立ちます。社長曰く、「何でも調子がでるまでに3年はかかりますな!」っと。

ハードロック工業を昭和49年に立ち上げ、現在42年間が経過。その間改良を続けながらも、基本的にはこの画期的な「絶対緩まないナット」一筋で会社は成長し続けてきました。日進月歩の現在、企業サイクル(寿命)は20~30年と言われる中、ハードロックナットは長寿命の技術ですが、言いかえるとそれは本物の技術であることの証でもあります。ただ余り高性能の製品を作ってしまうとリピート注文が無くなるのが残念とも。世界最長の明石海峡大橋に使用されているナットは100年保証が条件だったそうですが、そうなるとまず再注文はこないし、そもそも検証できるかどうかも不明です。

若林社長のお話で特に印象に残った点は、真に良いアイデアやひらめきには以下の2つの条件が必要であると:①まず心が豊かでないといいアイデアはでてこない。つまりヘトヘトに疲れ切っていたり、忙しすぎて余裕がなかったりすると本当に良いアイデアはでてこない。②良いアイデアは更なる深掘りが必要。良いアイデアやひらめきは、そんじょそこらに転がっているけど、そのままだと単なるアイデアにしか過ぎない。それを真に革新的な技術に仕上げるには、そこから思考をどんどん深掘りしていかなければならない。自ら実践された実績に裏付けされたお言葉だけに、とても説得力がありました。

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