#499 うどんの味・・・食味と食感
先日ある業界紙の「麺料理の食味と食感」という記事に目が止まりました。職業柄、うどんの「食味」と「食感」には人一倍関心があるので興味を持って読みました。あくまで編集子の「独断と偏見」と断った上での記事でしたが、共感できる部分も多く、個人的に気になった点を箇条書きしてみました。
①麺料理の食味を表現するには、「濃厚」、「こってり」、「あっさり」などがある。一方食感を表現するには、「ツルツル」、「シコシコ」、「モチモチ」、「モッチリ」、「シャッキリ」といった言葉がある。
②美味しさには、「たまに食べて美味しい」ものと「毎日食べても飽きない美味しさ」がある。
③世の中には、年間300食以上のラーメン・うどん・そばを食べ歩くグルメ評論家もいるが、彼らは同じ麺を食べるわけではなく、毎日異なる麺を食べ歩く。よって彼らの推奨する美味しい麺とは、どちらかというと「たまに食べて美味しい」と感じる麺かもしれない。
④一方、普通の麺好きは、毎日違う麺ではなく、自分が通い慣れたお店で、同じものを食べる。よって彼らの考える「美味しい麺」とは、「毎日食べても飽きない」麺であり、グルメ評論家のそれとは異なることがある。
海外で従来から人気のある日本料理御三家といえば、天ぷら、刺し身、寿司ですが、これらを「毎日」食べている人は余りいません。理由は、おいしいけれど、毎日食べるには味が「こってり」し過ぎているからです。同様の理由で、偶に食べるカツカレーや豚骨ラーメンは美味しいけれど、余程のことが無い限り毎日食べようとは思いません。特に年配者にとっては厳しいものがあります。
以前、「食品を正しく評価するには、時間や場所を変え、少なくとも3度は食べる必要がある」と聞き、得心した覚えがあります。体調や食欲は日々異なるために、一度切りでは正当な評価はできない可能性があります。また食べ始めは「旨い」と感じても、食べ進むうちに、くどく重たく感じることもあるので、正しい評価を行うには、ホール(一食全部)を食べ切ることが重要です。
うどんは、比較的あっさりしているので、毎日抵抗なく食べることができます(?)。実際、ここ讃岐では、土地柄、毎日昼食にうどんを食べる方も珍しくありません。そして、うどんにも「たまに食べて美味しい」うどんと、「毎日食べても飽きないうどん」の2種類があると思います。当然、毎日食べることができるうどんは、後者のうどんです。「うどん自体には味がないので、出汁が美味しければそれで十分だ」という声も聞きますが、それは正しくないと思います。もしそう感じるのであれば、(タピオカでんぷん100%+小麦グルテン)だけで作ったうどんを試してみれば、小麦本来の味と如何にかけ離れているのかが実感できます。
うどんを口に入れて噛んだ時、「もっちり」とした食感は特徴的で好感がもてます。しかしうどん自体の味がないと、食感の良さだけでは、砂を噛むようで最後まで食べ続けるのはあまりに味気なく困難です。「うどんがツルツルしていて出汁がうまく麺に絡まない」という表現もよく聞きますが、これは出汁が滑って絡まないのが理由ではなくて、実際には小麦でんぷんの旨味が充分に引き出せていない結果、うどん自体の味がなくそう感じてしまうからだと考えます。
誤解を恐れずに言うと、毎日食べても飽きないうどんは、「小麦粉でんぷんの旨みを上手に引きだしたうどん」であると考えます。うどんが喉を通過したとき、一呼吸遅れて口内に拡がる仄かな甘味こそが、毎日食べ続けることのできるうどんの条件だと思います。「もっちり」とした食感は、一口噛んで直ぐに理解できますが、小麦でんぷんの「仄かな甘味」というのは、なかなか気づかないし、逆に直ぐ知覚できるような強いものであれば、直にくどく感じてしまうはずです。