#471 マレーシア・補助金の代償

f471「肥満」は現代病の一つで、全世界共通の大問題です。もちろん日本でも大きな社会問題となっていますが、食生活の違い故、アジアよりもアメリカに代表される欧米諸国における問題の方が更に大きくそして深刻なものだと勝手に思っていました。しかしです。なんとマレーシアではすごいことになっているようです。以下、「マレーシア、補助金の代償(日経新聞2014.11.30)」という記事の内容を簡単にまとめてみました。

マレーシアにおけるBMI25以上の「体重過多」の割合は、2013年に成人女性の約49%に達し、東南アジアの最高水準、また成人男子のそれは44%で、これはシンガポールに次ぐ2位である(因みにBMI25は、身長170cmに対し体重72.25kg)。この理由としては次の3点が考えられている:

①「食べ過ぎ」
同国の一人当りGDP(国内総生産)は1万ドルを越え、日々の食事に困窮することはない。しかも人気メニューは揚げ物やカレーなど油を大量に使用する料理が多い。
②「運動不足」
乗用車所有率は79%に達し、隣国のタイ(17%)、インドネシア(7.5%)と比較して極めて高い。その結果、短距離でも歩くことは少なく、こういった生活習慣が肥満を招く。
③「補助金による肥満の助長」
マレーシア政府は、コメ、食用油、小麦粉、ガソリンといった生活必需品の価格を補助金で負担している。豊かなに国であるにも拘らず、補助金をばらまく理由は、現在の政権与党が不人気であるため、その支持をつなぎ留めるためだ。しかしその結果政府債務残高はGDPの55%を超える水準に膨らんだ。

マレーシアの生活習慣というのは、日本では都会よりも地方の生活に近いようです。都会の人々は、通勤通学で、駅の階段を頻繁に昇り降りすることで元気満々であるのに対し、地方に住んでいると、近所のコンビニでもすぐに自転車や車を利用するため、どうしても運動不足になる傾向にあります。「運動不足なら運動をすればいいじゃないか」と言うは易しですが、個人によっては好きじゃない人もいるので、そうせざるをえない環境に身を置かないと、なかなかできないのも事実です。

オランダでは、自転車通勤減税があると聞きましたが(#055)、これは「自転車をこぐ⇒健康になる⇒医療費が減る⇒減税の原資ができる」といった好循環のシステムによるものです。簡単にいうと、自動車保険のゴールド割引とか、生命保険の非喫煙者割引みたいなもんでしょうか。しかし自転車通勤を促進するためには、自転車専用道路の整備といった行政の積極的な協力が欠かせません。よって国民全体の健康状態をアップさせるには、行政がどううまくプランニングするかにかかっていると考えます。

マレーシアにおける「生活必需品に対する補助金の投入」については、昨年の8%に増税されたときに議論された軽減税率を思い出しました。「生活必需品だからこそ誰でも買いやすくするために低税率にするべきだ」という内容だったと理解していますが、マレーシアの場合には、それが「肥満を招く」一因になっている可能性があります。以前、NY市長が大型サイズの砂糖入り飲料の販売を禁止する方針を打ち出しました。またデンマークでは脂肪や砂糖を多く含んだ食品への課税が検討されましたが、これらは全く逆の対応です(#421)。

健康寿命とは、「日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間」のことを指しますが、「平均寿命-健康寿命=介護が必要な期間」となります。医療技術が進歩により平均寿命が飛躍的に延びたのは歓迎すべきことですが、その結果、「介護が必要な期間」もまた延びているのも事実です。そうなると医療費や社会保障が益々増え、最後には誰も支払うことができなくなります。そうならないためにも、行政はもう少し積極的に、「平均寿命≒健康寿命」となるよう、私たちの生活習慣に積極的に関与した方が個人的には良いのではないかと思っています。食パンの小麦粉を強力粉から全粒粉に変更するのも一案かと思います(我田引水)。