#468 パン粉

f468先日、業界誌に目を通していたらパン粉の記事(「名脇役『パン粉』の世界」by丸山憲夫氏)を見つけたので簡単にまとめてみました。ご承知のようにパン粉は、各種フライ類の衣や、ハンバーグやミートローフといった肉料理のつなぎに幅広く利用され、現在の食生活には欠かせない食材です。

今更、告白するのも恥ずかしい話ですが、「パン粉の製造方法」については数年前まで知りませんでした。というか、考えたことがなかったと言う方が正しいかもしれません。ただ漠然と、小麦粉を「パン粉製造機」なるものに投入すると、パン粉がパラパラで落ちてくるようなイメージをなんとなく持っていました。で、実際はというと、その名前の通り、最初に食パンを焼き、次のそのパンを砕いて粉にするという二段階の方法が一般的です。

戦前は需要もそれほど多くなかったので、必要に応じてレストランのコックさんが、食パンを手でほぐし、それを金網で篩って作っていました。しかし戦後、食生活の洋風化が加速され、フライ食品が増えた結果、パン粉は専用のパン粉製造工場で製造されるようになります。更には昭和40年頃からは大型量販店の普及と同時に、冷凍食品も市場に広く出回るようになり、パン粉市場は一気に急成長します。現在のパン粉生産量は年間15万tで、これは一人あたり年間1.2kg、つまり毎月100g程度になります。とんかつ一枚のパン粉使用量は6gなので、これはとんかつ16枚分ということになります。

繰り返しますが、現在においてもパン粉の製造は、最初にパンを焼き、次にそれを砕いてパン粉にする方法が主流ですが、それには①焙焼式パン粉と②電極式パン粉の2種類があります。①は一般的なイメージのオーブンで焼き上げた食パンから作るパン粉で、その焙焼した風味が特徴と言われています。一方、②はパン生地に電気を通電させてパンを焼くというパン粉独特の製造方法です。電極式パンは、焙焼式パンと異なり焼き色がつかず、大きな白い蒸しパンのように焼きあがるので、匂いも色もなく、私たちがスーパーで良く見かける白いパン粉はこの方法によるものです。

ところで記事中で興味を引かれたのは、「一般の食パンとパン粉用食パンの違い」の部分です。昔は普通の食パンを砕いて、それを金網で篩っていたので、基本的にはどちらも同じパンであるはずです。しかし現在のパン粉工場で製造されているパン粉は、私たちが普段口にしている食パンとはかなり異なります。どう違うのか?記事を独断で要約すると次のようになります:

例えばフライの衣に使用する場合、見た目がカラリと揚がることが必要だが、市販の食パンを砕いたパン粉では、濃い揚げ色になってしまう。また市販の食パンやHBの食パンレシピでは、砂糖、塩、油脂などをかなり使用するため、このような食パンを使用すると、パン粉自身にも味がついてしまう。結果、フライの衣だけでなく、ハンバーグの練り込みに使用する場合も、素材そのものの味に影響してしまうので良くない。よってパン粉用食パンは、砂糖、塩、油脂などの副原料を極力控え、素材の味を引き立てる脇役に徹することがポイントであり、パン粉自身に余計な味が無い方が、素材本来の味がよく引き出せる。

上記の「余計な味が無い方が・・・」というのは、正にその通りですが、同時に小麦粉そのものの「控えめな味」が素材の味を更に引きだしていると、個人的には考えます。小麦粉はその「地味な味」故、「一見味がない」と勘違いする方もいるかもしれません。しかしもしパン粉を小麦粉以外の穀粉、例えばコーンスターチやタピオカでんぷんなどで代替した場合、全く違う味に仕上がるので、どなたも小麦粉本来の味を実感される筈です。うどんも同じです。「小麦粉の味」が控えめであるからこそ、どんなトッピングにも合い、また毎日食べても飽きません。食感改良などの目的で他の食材を練り込むと、最初は感動しても(?)、その内にきっと飽きてくると思います。