#295 小麦の適性・・・ASWと1CW

日本では現在およそ年間600万tの小麦が製粉されています。その内訳はざっくりですが、アメリカ300万t、カナダ、オーストラリア、そして国産小麦がそれぞれ100万tです。これを1億2500万で割ると一人当たり48kgの小麦となり、製粉歩留りを78%とすると37kgの小麦粉になります。つまり私たちは一日あたり約100gの小麦粉を摂取しています。計算方法は色々あるでしょうが、小麦粉換算するとうどん1玉が70g食パン6枚切り2枚が80gなので、まあ感覚的にこんなもんかなと思います。

私たちの主食は言うまでもなくお米ですが、以前は年間一人当たり120kgの消費量が現在では半分の60g近くまで減少しています。この理由は大きく2つあります。ひとつは食糧事情が豊かになったので、主食の比率が落ちたこと。つまり昔は沢山のご飯に少しのおかずが定番でしたが、今は逆です。そして2番目は食の多様化です。昔は専ら和食ばかりでしたが、現在はありとあらゆる料理が食卓にのぼり、その中で大きな存在感を示すのが小麦粉製品です。これは戦前(死語?)はほとんど輸入されることがなかった小麦が、現在は500万tもある事実からも明らかでしょう。

さて近年小麦粉製品が台頭してきたことはわかりましたが、その小麦粉製品の原産国がどこであるかは余り知られていません。さぬきで小麦粉製品といえば、何をおいてもうどんですが、うどんの主原料はオーストラリア産のASWです。つまり年間約6万t生産されるさぬきうどん(小麦粉ベース)の原料はほとんどがASWです。「さぬきの夢」という優秀な地場の小麦もありますが、生産量が限られているために全体の5%程度しか賄えていないのが実情です。オーストラリアの人たちはうどんを食べる習慣はありませんが、品種改良を重ねて和風麺に合う小麦品種ASWを開発してくれました。

ではパンはどうかというと、現在業界標準となっているパン用小麦はカナダの1CW(No.1 Canada Western)、通称1C(ワンシー)もしくはCW(シー・ダブリュ)です。アメリカのDNS (Dark Northern Spring)もパン用としては甲乙つけ難いのですが、今のところは1CWがパン用小麦の代名詞となっています。パン用小麦粉の条件としては十分なたんぱく質があることです。パンはその製造工程において、アルコール発酵により二酸化炭素が発生され、これによって生地が膨らみますが、グルテン(タンパク質)の量が十分でないと、この膨れた生地を支えることができなくなり、しぼんでしまいます。膨らんだパンが必ず美味しいとは限りませんが、しぼんだパンは硬くて美味しくないので、十分に膨らむことがおいしいパンの必要条件です。

またケーキやクッキーなどに使用される小麦はアメリカのWW(Western White)、通称ダブダブが最適とされています。WWはたんぱく質が少ない軟質小麦で、これはタンパク質の高い1CWと対照的です。ケーキの場合は何と言っても、ふっくらとしたソフトな食感が生命線で、これをだすにはできるだけタンパク質の少ない小麦粉が適しています。タンパク質が多いとどうしても食感が「もったり」してケーキには適しません。同様に天ぷらの衣も、タンパク質が少ない小麦粉の方がカラッと揚がります。このように輸入される小麦も適材適所で使用されています。

ところで現在全世界では毎年7億トン近くの小麦が生産されていて、アメリカ、カナダ、オーストラリアの生産量は、そのごく一部にしか過ぎません(現在その3カ国から輸入されている理由は、輸出余力があり安定供給が可能であること、そして品質が良いからです)。もしかしたらASWや1CWよりもうどんやパンに適した銘柄があるかもしれません。そこで潜在的な輸入国であるアルゼンチン、ドイツ、フランス、トルコの小麦を先日、ある業界団体がテストしてみました。結果は、今回試した中で、ASWや1CWを上回る銘柄はなく、これまでのところうどんはASW、パンは1CWがベストといって良さそうです。