#180 挽きたてほやほやの小麦粉でパンを焼いてみました

挽きたての小麦粉でパンを焼くとうまく膨らまない(ことがある)といいます。理由は、挽きたての小麦粉は酵素活性が高いからとか色々言われますが、ゼルニーさん(新着情報#123)は、小麦粉に含まれる不飽和脂肪酸が影響していると言います。小麦粉は挽かれた直後から空気にさらされ、酸化が始まり、よって小麦粉中の不飽和脂肪酸が、少しずつ増加します。時間が経過し過ぎると増えすぎて、今後は逆にグルテンが劣化してよくありませんが、ゼルニーさんによると、これが少しだけ増えたとき、パンの一番よく膨れるとのことです(詳細は、新着情報#123をご参照ください)。小麦粉を挽いたあと、少し時間をおくことで小麦粉の加工適性が上がることを「小麦粉の熟成」といいます。

「パンを焼くときには、小麦粉を熟成させた方がいい」というのは通説ですが、その熟成期間については諸説紛々で、「全く必要ない」から始まり、「24時間だろう」、「3日間かな」、「いや一週間は必要」など様々です。で、実際に「挽きたての小麦粉で焼いてみるとどうなるか?」と思い立ち焼いてみました。小麦粉はAとBの2種類用意。Aは挽いてから練るまで僅か5分位という、正に挽きたての小麦粉そのもので、一方Bは挽いてから1ヶ月経過したものです。焼き加減は公平を期すために、同じメーカーのホームベーカリーを2台並べて焼きました(画像参照)。蛇足ながら現在は「パン焼き器」よりもホームベーカリーの方が呼び方としては一般的のようです。個人的にも「パン焼き器」か「パン焼き機」か悩まなくていいので、ホームベーカリーの方が好きです。
結果はご覧の通り、どちらもほぼ同じように膨らみました。正真正銘の挽きたてでしたが、普通に膨れたのは少し意外でした。あくまでも個別のケースではありますが、今回に限っていえば、小麦粉の熟成時間はなしでも充分に膨らんだということになります。ではなぜ挽きたてでも膨らんだのか、少し考えてみました:

①ホームベーカリーの性能が向上した(?)。
②小麦の粒での状態で、熟成が完了している。
③製粉工程中に熟成が完了している。

左:P社製、右:N社製(同じものですが、社名が変更されました)

左:P社製、右:N社製(同じものですが、社名が変更されました)

左:挽きたてほやほやの粉。右:挽いて1ヶ月経過した粉を使用

左:挽きたてほやほやの粉。右:挽いて1ヶ月経過した粉を使用

①については専門外なので説明できる立場にありませが、②について少し説明します。現在パン用に最適な小麦はアメリカもしくはカナダから輸入されていますが、そういった小麦は向こうで収穫した後、船で運んでくるので、こちらで製粉するときには、収穫されてからかなりの時間が経過しています。よって、その間に熟成はある程度完了しているという考えです。つまり小麦粉ではなくて小麦の段階で、熟成がある程度完了しているということです。

③については、現在の製粉工場内では、小麦粉の移動はすべて空気の流れを利用して行われています。簡単にいうと、掃除機は空気とゴミを一緒に吸引しますが、それと同じ理屈です。空気の流れを利用すると、小麦粉が隅に溜まったりすることがなく、衛生的です。この方式(ニューマ方式といいます)だと小麦粉は強制的に空気にさらされるので、言い換えると自然の状態で空気に長期間さらされているとの同じ効果が得られ、よって製粉工程中に熟成がほぼ完了するという考え方です

さて結論ですが、少なくとも今回は、挽きたてでもパンは充分に膨れたので、熟成時間はそんなに必要ないかと考えます。以前うどんで試したときも、挽きたてで全然問題なし、というか新しいほど風味が強くて張りがあったとの結果(新着情報#121)を併せると、小麦粉は新しいほど良いのかもしれません。試しに挽いた粉を翌日(つまり1日熟成させた粉)焼いてみたところ、更に張りがあったようにも見えたので、1~2日程度の熟成がベストなのかも知れません。しかし挽きたての小麦粉を、待ち構えて使用するケースは皆無で、通常は流通に数日を要します。よって、結論としてパン用粉も新しいほどよく膨れるといっても、特段問題はないと考えます。