#177 小麦グルテンの種類の違い

小麦粉には10%前後のたんぱく質が含まれていますが、そのたんぱく質の種類は80以上と言われています。その中でも特に重要なのが、グルテニンとグリアジンで、その理由は水と一緒になって小麦粉特有のねばねばしたグルテンに変わるからです。小麦粉が生地の状態で自由に成形できるのも、このグルテンのお陰です。世の中、穀物の数は星の数ほどあっても、このグルテンをもっているのは小麦だけで、それ故小麦の加工適性はダントツなのです(小麦に近いライ麦にはグリアジンが含まれていますが、グルテニンがありません)。そしてその加工適性に味の良さが相俟って、小麦は食用穀物の中では一番多く生産されるようになりました。

小麦粉からグルテンを取り出すのは簡単です。①水を加えて②捏ねて③暫く時間をおいた後、水で洗い流してやると、「ぶよぶよ」、「ねばねば」した、チューインガムもしくは鳥もちのようなグルテンがとれます。これは水分を含んだ状態なので、湿麩(しっぷ)とも呼ばれています。よって小麦粉に水を加えて練り、暫く熟成させた後、延ばしてやると、このグルテンが四方八方に立体網目構造をつくり、生地をしっかりと支えてくれます。

このような性質を説明するために、グルテンは建物の中の鉄筋によく喩えられます。これは確かにその通りですが、実際のグルテンは「ぶよぶよ」しているので鉄筋のような硬いイメージは今一湧いてきません。しかしパンでもうどんでも、生地を加熱してやるとグルテンは失活、つまり活性を失って「カチンカチン」になるので、この状態になると鉄筋のイメージがより一層明確に湧いてきます。一方でんぷんは、コンクリートに喩えられますが、これも水を加えて、加熱して固まると、そこで初めて硬いコンクリートのイメージになります。

一口にグルテンといっても色々あります。小麦はその硬さに応じて、硬質小麦、中間質小麦、軟質小麦と分類されますが、一般に含まれているたんぱく質の量もその硬さに比例します。つまり硬い小麦ほどたくさんのたんぱく質を含んでいるので、それだけ多くのグルテンがとれることになります。だからパンはよく膨れるように、硬質小麦からとれた強力粉、うどんは中間質小麦からとれた中力粉、そしてケーキやてんぷらなどのように、膨れずに「ふわふわ感」や「ぱりぱり感」をだしたいときには、軟質小麦からとれた薄力粉を使用します。これが小麦粉の基本的な使い分けです。

1等粉グルテン(左)と2等粉グルテン

1等粉グルテン(左)と2等粉グルテン

さて前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。ただ同じ小麦であっても、胚乳の部位によってそのグルテンの性質は異なります。一般に中心部になるほどグルテンの量は少なくなり、そして硬くなります。つまり周辺部分ほど多く、また軟らかくなります。小麦の等級でいえば中心部分が1等粉で、その外側が2等粉になるので、同じ小麦であれば2等粉の方がグルテンが多く、そして軟らかくなります。実際に同じ小麦からとれた1等粉と2等粉のグルテンを採取して、暫くつるしておくと次のようなり、違いは歴然です。

ですから2等粉でうどんをつくってみると、周辺部分の表皮が混じっているので色は黒くなるし、またグルテンの量は多いけれど軟らかいので、なんか「もそもそ」して歯切れがよくありません。つまりうどんにはグルテンの性質から考えても1等粉の方が適していることになります。では、どんな食品でも1等粉の方がいいのかといえばそうでもなくて、おせんべいのような和菓子では2等粉の方が適していることがあります。理由は、グルテンが硬いとせんべいが硬くなったり、また焼き上がりに時間がかかったりするからです。その点2等粉であれば、グルテンが軟らかいので、全体がやんわりと焼き上がり、またせんべいなので多少色が黒くても気にならず(というかその方がせんべいらしい?)、良いせんべいが焼けるのです。だから価格は1等粉の方が高いけれど、その用途は適材適所ということになります。