#162 今時の小麦製粉⑤・・・小麦の挽砕その2

挽砕の後も、いくつか工程はありますが、その前に石臼とロール機との違いについて触れておきます。ロール機が石臼に取って代わった理由はいくつもありますが、まず何と言っても処理能力の違いは歴然です。小さな石臼では1時間で数㎏しか挽けないのに対し、ロール機では何㌧も処理できます。またロール機ではロール間隙の正確な調整が可能なので、ストックの粒度管理が容易におこなえます。その他にも違いはいくつもありますが、特に注目してほしいのは、両者の挽砕方法の違いです。

右図にあるように、石臼には上臼と下臼があります。下臼は固定しておき、上臼は上から見て左回転するので、そこに「挽く」という動作が発生し、中に落ちた小麦は引き裂かれます。これによって中の胚乳部が露出するので、それを篩って小麦粉にします。

一方、ロール機は右下図のように内側に回転してる一対の円柱状のロールに、小麦が落ちて挽かれます。ここでのポイントは、のロールは速差ロール、つまり手前側が早く、後方が遅く回転していることです。例えば手前が450rpm(rpmは1分あたりの回転数)、後方が200rpmだとすると、これは見方を変えると、後方のロールは静止していて、手前が二つの速度差250rpmで回転しているのと同じことです。よってここでも「挽く」という動作が発生します。そしてどちらも回転しているので、一度に多量の小麦がロールを通過し、挽くことができるようになります。

もし両方の回転数が同じであれば、そこを通過した小麦はスルメみたいに薄くなるだけで、中の胚乳はうまくでてきません。ですから2つの回転速度が違う速差ロールを使用するところがポイントで、見かけは違っても、結局のところ石臼とロール機は同じ仕事を処理していることになります

ただ両者には決定的な違いが一つあります。それは、挽かれた後の状態です。石臼では中心近くに落ちた小麦は、落ちた直後に挽かれた後も、両方の臼に挟まれたままなので、最終的に外に押しだされるまで、ずっと挽かれ続けます。この結果どうなるかといえば、表皮は著しく挽きちぎられ細かくなってしまい、その一部は篩の網の目を通り抜け、小麦粉に入ってしまいます。石臼で挽いた小麦粉が、少しくすんで見えるのはこれが主たる理由です。

一方ロール機の方はといえば、小麦がロールと触れ合うのは、ロールのかみ合い部分の一瞬だけです。小麦はロール機で挟まれ、挽かれた次の瞬間には下に落ち、そのままの状態で篩にかかります。よって表皮の混入を最小限にとどめ、胚乳部分だけを取り出すのに都合の良い構造になっています。言い換えると、小麦は石臼とは「面」で接し続けるのに対し、ロールとは「点」で接するだけです

「表皮が少し混ざった方が、風味が増していいじゃないか」という意見も確かにあります。しかし先人達は黒くて硬く、ごわごわしたパンよりも、白いふわふわのパンを求めました。また現在では、ぼそぼそとした食感のくすんだうどんよりも、淡黄色の鮮やかな、つるつるとしてのど越しの良いうどんが主流になりました。実際、両方のうどんを予備知識なしで試食してもらうと、大抵の人は白いうどんの方を選択します。人の好みは千差万別なので一概にこうだとは決めることはできませんが、一般的な傾向としてはロール式の方が支持されているのが現状です

もちろん石臼にも利点はあります。蕎麦屋さんの中には、今でも自前でそばを石臼製粉しているところが多くありますが、これには理由があります。「蕎麦は挽きだち」といわれるように挽きたてがもっとも風味が強いので、打つ前に挽くのは筋が通っています。うまい具合に、蕎麦の殻は小麦と違い非常に硬く、また皮離れがよいので、石臼でも充分に胚乳部分を効率的に取り出すことができます。よって小麦のように段階式に製粉する必要もなく一発勝負で充分です。以上のような理由で、設備も小麦製粉のように大規模にする必要がなく、石臼と篩だけで自家製粉できます。つまり蕎麦は小麦とは構造が全然違うので、手軽な石臼による製粉が可能になっています。