#115  水回しと足踏みの役割・・・その②

前回、水回し(混合)と足踏み(捏練)とでは、それぞれの役割が違うことを確認しました。私たちは、その両方を併せて混捏(こんねつ)と呼んでいますが、ここでは、用途の違いによる小麦粉の加工方法を紹介し、混捏に対する更なる理解を深めたいと思います。小麦粉を加工するからといって、すべてグルテンの特性を利用するわけではありません。中には、逆のものもあり、てんぷらの衣などはその代表例です。一見、うどんには関係ないようですが、そういうものを理解することによって、混捏の本質が見えてくるようになります(たぶん)。

(1)てんぷらの衣の作り方
てんぷらの衣をつくるポイントとしては次の3つがあります。
①薄力粉を使用
②冷水を使用
③あまり強くかき混ぜない

これらは全てグルテンが発生しないようにするためです。てんぷらの衣は「サクサク、パリパリ」している方が、おいしく感じます。グルテンが発生すると、全体に「もったり感」がでてきて歯切れが悪くなるので、「衣」には適していません。薄力粉を使う理由は、小麦粉に含まれているタンパク質が少なく、従ってそれだけグルテンができにくくなるからです。冷水の利用もグルテンの発生を抑制します小麦粉のグルテンを採取するときは、ぬるま湯を使用することを思いだしてください。これはグルテンが採れやすいようにするためです。また強くかき混ぜると、そこに「捏ねる」動作が発生するので、グルテンができてしまいます

(2)餃子の皮の作り方
てんぷらと異なり、餃子の皮は、中身をしっかり包み込む必要があるので、グルテンの力が必要です。
先日、テレビで餃子作りの名人が、餃子の皮の作り方を説明していました。小麦粉と水とを合わせる「水回し」はうどんと同じですが、その後そぼろ熟成を1時間、それが終わると充分に捏ねて、グルテン形成をしてから、更に1時間熟成させると説明していて「なるほど」と唸りました。こうすることによって、生地がしっかりとして、また熟成効果によって、皮の味もよくなります。うどんも同じ2時間かけるのなら、「水回し後、すぐに足踏みして2時間熟成させる」よりも、「1時間のそぼろ熟成後、足踏みして1時間熟成させる」方がいいうどんができるはずです。

(3)そぼろ熟成の時間
そぼろ熟成をすることによって、うどんに艶が増し、もっちり感がでてきた」というのは、それを実践した方々の声です。では、そぼろ熟成の時間はどれくらいがベストかというと、これは気温や水回しの出来などの条件によっても影響されます。気温が低いと水分の浸透に時間がかかるので、冬場は夏場より長い時間が必要です。水回しを雑にすると、いくら時間をかけても効果が薄いかもしれませんまた気温の高い夏場であれば、水回しが完璧にできた時点で、そぼろ熟成はほとんど必要ないかも知れません。

そぼろ熟成の効果は次のように考えると理解しやすいと思います。水回しの後、そのままの状態で放置しておくと、小麦粉には圧力がかかっていないので、水分はじわじわと隅々にまで拡散し、浸透していきます。ところが、水回し後、生地を直ちに固めてしまうと、内部での水分が拡散しにくくなるのが原因ではないかと。

(4)究極の生地作り?
以上を考慮すると、究極の生地作りだって可能かもしれません。例えば、水回しは冷たい塩水でする。理由は、てんぷらの衣と同じで、グルテンを発生させないためです。ぬるま湯とかお湯だったら、小麦粉にふれた部分はどうしても塊になり、混ぜているうちにグルテンができてしまうからです。同じミキサーを使用し、同じ条件(加水率、塩度)で練っていても、冬場は小石状の塊しかできないのに、夏場ではひとつにまとまってしまうのも同じ理由です。

ただし、一旦水回しが完了すると、こんどは全体を少し暖める必要があります。そぼろ熟成、足踏み(捏練)、および生地の熟成では、温度が高い方が、グルテンの生成、熟成の効果が大きいからです。熟成時間を充分にとっているのに、うどんに旨みがたりないと感じるときは、熟成時の温度が原因であることが多いようです。真冬に寒い部屋でいくら生地を熟成させても、効果はありません。以上をまとめると、ベストの方法は、「水合わせは冷塩水で、その後は常温に戻し、そぼろ熟成をおこなう」ことではなかろうかとでも、ここまでやるのはちょっとやり過ぎのような気もしますけど。