#098 食糧を取りまく環境

「世界の穀物の需給バランスは、だんだんやばいかんじになってきているようだ」と、先日の新着情報で報告しました。で、現在、小麦も含め食糧全体を取り巻く環境について、気づいたことをご報告いたします。一つは、食糧不足を回避するための、食糧の増産方法についての動き、もう一つは、より安全安心な食品を得るための方法。問題なのは、この二つはまるっきり正反対の動きで、どうするかは私たちの選択にかかっています。

(1) GMO(Genetically Modified Organisms)遺伝子組換え食品の可能性
これからもっともっと食べ物が、必要になってきたときのひとつの選択肢としてGMO(遺伝子組換え食品)の利用があります。つまり遺伝子組換え技術を駆使して、「収量の高い品種」、「病害虫に強い品種」など、私たちにとって都合のいい品種を、遺伝子技術を使って、開発しましょうという方法です。でも、「こんなわけのわからんもん食べたくない」という人は多く、現在のところGMOアレルギーは結構大きいように感じます。

そもそもGMOが安全かどうかは、普通の人にはよくわからんし、専門家の間でも判断の分かれるところです。実際、「GMOは安全だ」みたいな立場をとるサイトもあれば、全く否定的なところもあります。 ただ、「特定の病害虫に対する耐性のある作物」なんかできると、生態系が変わる可能性があるので、素人目にも「ちょっとやばいかなあ」という思いはあります。だからまだ未知の部分が多いせいか、主食である小麦については、まだGM小麦というのは作られていません。今は、池に小石を投げて、どの位波紋が広がるのかを見ている段階でしょうか。

(2)有機栽培とか無農薬栽培農作物
最近、有機栽培とか無農薬栽培といった食品に人気がでてきました。どちらもより安全で安心な食品を食べたいという欲求から商品化されました。市場は、需給バランスにより決まるのだから、どんなに高くついても、それを購入する人たちがいるのなら、作るのは当然のことだと思います。
ただ、一方でこういった栽培方法は、従来の栽培方法に比べずっと多くの、手間暇や耕作面積が必要となるので、全ての人たちの食物をこういう方法で賄うのは、全く不可能です。だから穀物生産は、ほぼ限界に近づきつつある現在において、一部の経済的に余裕のある人たちだけが、そういったものを買ってもいいのかという疑念も、個人的には残ります。

また、それ以前に、農薬を一方的に「悪である」と決めつけるのも、どうかなと考えます。他の穀物はどうか知りませんが、少なくとも小麦については、輸入麦、内麦を問わず農薬を使用しないというのは現実的ではありません。内麦といえども、農薬は使用しているし、収穫後も害虫の発生を予防をするために定期的に燻蒸(くんじょう)をします。

少し専門的になりますが、一般に人間に有害なカビ毒を総称してマイコトキシンとよんでいます。そして米、麦などはこれらの毒素を発生するカビが繁殖しやすく、やっかいなことに発ガン性カビ毒などは、加熱調理しても破壊できないことです。よってこのようなカビをよる害を防ぐ目的で、ポストハーベスト農薬、つまり収穫後の妨カビ処理が必要になってきます。

特にヨーロッパでは、麦角菌による中毒は大問題で、中世ヨーロッパにおいては多くの犠牲者をだしました。この麦角菌を研究する過程において、LSDが発見されたというのは、小麦の世界では結構有名な話です。このように小麦に対しては、農薬を使用しないというのは、現実的ではありません。

世界的に見て、食物の生産能力が限界に近づきつつあるのは、事実です。一方で、より安全で、安心な食品を食べたいという欲求も、高まりつつあります。そしてこれを両立させるのは、現在のところかなり難しい、というかほぼ不可能です。この問題、あなたはどう考えますか?

食品の安全性に注意を払うことは大切ですけど、いくら考えても際限がないので、それを必要以上に意識するよりは、規則正しい生活とか、運動習慣をつけることの方が、個人的には優先順位が高いと考えています。