#529 加工食品の原料原産地表示の行方

f529加工食品の基本的な5栄養成分表示(①熱量②たんぱく質③脂質④炭水化物⑤食塩相当量)については、5年間の猶予期間の後、平成32年4月1日より義務化の運びとなりました(#527#528)。一方、消費者の方々に安心して食品を選んでいただけるよう、加工食品には従来から品質表示基準に沿った「一括表示」、具体的には、「名称、原材料名、内容量、消費期限(または賞味期限)、保存方法、調理方法、製造業者」といった内容の表示が義務付けられています。

一括表示に含まれる「原材料」については、その「原料原産地」がどこなのか気になる方もいるでしょう。現在のところ原料原産地表示が義務付けられている加工食品は、生鮮品に近い22食品群(緑茶、餅、塩漬けにした魚介類、調味した食肉、乾燥キノコ類など)及び個別4品目(冷凍野菜食品、ウナギ加工品、かつお削り節、農産物の漬物)が義務付けられています。義務化の基準は、原料原産地の差異が品質に大きく影響するもので、これは加工食品全体の20%程度となっています。

現在、消費者庁と農林水産省は、専門家で組織した「加工食品の原料原産地表示に関する検討会」を立ち上げ、そこで加工食品における「原料原産地」表示義務化の範囲拡大を、検討中です。少し前になりますが、この件については毎日新聞の記事:「食品原料・産地表示に賛否(2016.05.18)」が中立的な立場で、手際よくまとめられていて、とても参考になりました。

欧米先進国の加工食品には、栄養成分や原材料比率だけでなく、1日に必要な栄養素の充足率(%表示)が表示されています。一方、「原料原産地表示は、食品にもよるが、優先順位は低く、先進国中で、原料原産地表示を議論している国は日本だけだ」という意見もあります。個人的な意見ですが、情報は詳しいほど良いというものではなく、「重要ポイントを簡潔に表示すること」が肝要だと思います。インスタント食品の中には、原材料などの情報が、詳細にびっしりと表示されているものもありますが、全て読んで理解している方は、ほとんどいないはずです。つまり膨大な情報は、無いのと大差ありません。

さてここからは、我々に関係する小麦粉に限定した話になります。業界団体である「製粉協会」は、「小麦粉製品についての原料原産地表示は、不可能である」との立場をとっています。以下事情を簡単にご説明します。現在、日本で食用に製粉される小麦は約600万t(内訳はアメリカ290万t、カナダ140万t、オーストラリア90万t、国産80万t)。そしてこれはどの製粉会社にも共通していることですが、ある銘柄の小麦粉を製造するときに使用する原料小麦の種類と比率は、常に一定ではありません。

その理由は、小麦は農作物であるため、同じ品種であっても、年毎、また地域毎にビミョーに品質が異なるからです。例えば「A」という銘柄の小麦粉は、製品カタログにタンパク質10.5±0.5%、灰分0.35±0.3%と表記されているとします。しかしいつも同じ種類の小麦の組合せを同じ比率で使用していると、この基準に合致しなくなることがあります。そこで各製粉会社では、製品スペックに合致させるため、常に小麦の種類や使用比率を少しずつ変更しています。

ところが原材料の品質表示基準においては、使用した原料を「多い順」に記載する義務があるので、同じ「A」という銘柄の小麦粉であっても、その使用比率に応じて、「小麦(カナダ、オーストラリア、アメリカ、日本)」とか、「小麦(アメリカ、日本、カナダ、オーストラリア)」とか「小麦(オーストラリア、アメリカ、カナダ、日本)」みたいな感じで、その都度表示順を変更する必要が生じます。つまり製粉する度に、表示の変更はできないという主張です。

更にこの原材料情報は、パンなどの加工食品にも引き継がれます。つまり同じパンでも、小麦粉のロットが異なる毎に原材料表示が異なることになります。よって製粉業界同様、製パン業界にとっても事情は同じということになります。「加工食品の原料原産地表示に関する検討会」の結論は今秋までにでる予定です。