#208 最高品質の小麦粉がとれる工程

現在の製粉方法は、「段階式製粉方法」といいます。これは小麦を一度に引き込んで小麦粉にするのではなく、(一段階小さくする → ふるい分け)といった工程を何度も繰り返し、最終的には1粒の小麦粒は40数種類にとりわけられます。なぜこんな面倒臭いことをするのかといえば、一度に細かく粉砕してしまうと、小麦の皮の部分(これを「ふすま」といいます)や表面についているほこりなどが、小麦粉に混ざってしまうからです。こういったものが混入すると、色調がくすんだり、また味覚や喉ごしにも影響したりするので、現在の製粉工程では、小麦粉にはふすま片や、不純物が極力入らないようにしているのです。

小麦を最初に大きく割る工程はファーストブレーク(1st Break)といいます。最初に割る(Break)のでこの工程には「1B」という名前がついています(鉛筆の濃さのことではありません!)。1B工程を通過した小麦は、当社の場合は5種類のストック(途中の半製品をこのように呼びます)にふるい分けられます。このうち一番粗いストックは、もう一度割られるために2B工程に向かいます。割られるのが2度目なので「2B」という名前がつくのは想像できることと思います。

またこの5つのストックのうち一番細かなものは、充分に細かく、ここでいきなり「小麦粉」となります。このストックはもう他に行き場がなく、ここであがりなので、一般に「上がり粉」と呼ばれています。また1B工程でとれた小麦粉なので、「1B粉」とも呼ばれます。さて問題はここからですが、「1B粉は最初にとれた小麦粉なので、一番品質が良いかもしれない」と思われるかも知れません。だってそば粉にしたって最初にとれたのは「一番粉」として重宝されるので、そう思いたくなる気持ちは良くわかります。でも実際はそうではありません。それは次のような理由によります。

小麦が米と大きく違う点は、小麦の断面図を見るとわかるように、縦に溝が走っています。これは粒溝(りゅうこう)またはクリーズといいますが、これは小麦の中心部分にまで深く食い込んでいて、その構造上ここには、ちりやほこりなどが溜まりやすくなっています。よって1B工程で小麦を大きく割ったときには、ここに含まれている不純物が混入する可能性があります。また細かくなったふすま片も1B粉に入るかもしれません。つまり1B粉には小麦粒の表面に不着している不純物が混入することがあるので、それ程グレードは低いことはありませんが、最高の粉ではないのです。

では最高品質の小麦粉はどこでとれるのか?それは、1Bの5つのストック中の2~4番目に多く含まれているセモリナ(胚乳の塊)からとれます。余談ですが、セモリナにはこれ以外にパスタの原料であるデュラム小麦の小麦粉という意味もあります(というかこちらが有名か?)。この3つのストックはそれぞれ大きさが違うので、それぞれ違う工程で処理されますが、目的はすべてできるだけ大きなセモリナを採り分けることです。胚乳の塊であるセモリナには、ちりやふすま片などの不純物は基本的には含まれていません。よってこのセモリナだけを小さくしてやれば、良質の小麦粉ができるというわけです。

セモリナにもみかんと同じように、大きいものや小さいものができます。大きな(粗い)セモリナのことをコース・セモリナ(Coarse Semolina)、そして小さい(細かい)セモリナのことをファイン・セモリナ(Fine Semolina)といい、それぞれ1SC工程、1SF工程で粉砕され、その多くが上級粉となります。つまり1SC、1SFあたりの上がり粉が品質的には最上級になります。2種類のセモリナを同じロール機で粉砕しない理由は、大きさの異なるストックを流せば、大きいものだけが小さくなって具合が悪いからです。つまりロール機を通過する前には、必ずストックの粒度を均一化する、これが重要です。このように現在の段階式製粉では、ストックの粒度管理も重要なポイントになります。