#195 うどんはなぜつながるのか?

小麦粉の主成分は、でんぷん質(70~75%)とたんぱく質(10%程度)です。#193で確認したように、でんぷんは水と練っただけでは、「つなぎ力」はゼロです。加熱して糊化することによって初めてひとつに固まります。一方、グルテニンとグリアジンを主体とする不溶性のたんぱく質は、水を加えて練ることによってグルテンを形成し、チューインガムのような「つなぎ力」を生じます。つまり小麦粉に水を加えて練った生地がバラバラにならずにまとまっていることができるのは、このグルテンのお陰です。同様に「ゆでる前のうどん」が切れずに繋がっていれるのも、グルテンの「つなぎ力」のお陰です(#194)。

ところが、ゆでると状況は一変します。小麦でんぷんは、加熱すると水を吸収しながら糊化を始め、どんどん膨れていきます。つまり糊状になって粘度が増し、だんだんと「つなぎ力」を生じるようになります。一方、グルテンの方は温度が上がるにつれて、活性を失い(失活)その結果、伸び縮みしなくなります。ゆでる前は自由に変形できるのに、ゆでてしまうと形が固定してしまうのはこのためです。もちろん失活してもある程度の「つなぎ力」は残っていますが、その主体はでんぷんの方に移ります。

このようにうどんは、ゆでる前後ではその「つなぎ力」の主役がグルテンからでんぷんへと交替します。具体的には小麦でんぷんは水を加えて加熱を始めると60℃あたりで急激に膨張し、粘度が増加します。つまりこれが糊化開始点で、このまま加熱を続けると85℃を超えるあたりで完全に膨張し、粘度も最高になります。そして更に加熱を続け、94.5℃で温度を一定に保持し、攪拌を続けると膨潤したでんぷん粒は、崩壊して今度は粘度の低下が始まります。風船が破裂するのと同じです。一方、グルテンが活性を失うのは大体80℃であることが知られています。よってグルテンとでんぷんとが、「つなぎ力」という役割を交代するのは70~80℃ということになります。

ところで「さぬきうどんのコシ」がよく話題になりますが、コシは一言でいうとゆで上げ直後のうどんの水分勾配ということになっています。つまりゆで上げ直後のうどんの中心部分の水分は50%程度であるのに対し、表面近くは約80%です。よって噛み始めは柔らかいけれど、かみ切ろうとすると力が要ることになります。「軟らかい中にもコシがある」という一見矛盾したさぬきうどん独特の表現方法をこれを意味しています。しかし折角のコシもゆでて30分も経てば外部から内部への水分移動が起こり、全体として水分が均一化され、どこを噛んでも同じ硬さ、つまり「うどんがのびた」状態になります。

ただ同じゆであげ直後のうどんでも、元の小麦粉の種類が違えば、そこの含まれているグルテンやでんぷんも異なり、よって違った食感や味のうどんができることは、これまでの説明で容易に想像できると思います。グルテンの多い小麦粉を使うとコシの強いうどんができると考えるかも知れませんが、この場合はうどんが全体的に硬くなるだけなので(どちらかというとスパゲッティのような食感)、コシとはちょっと違います。またグルテンの量が同じでも、その性質も色々です。またでんぷんの種類が違うと、でんぷん粒の糊化の仕方が異なるので、また違った食感になります。つまり小麦でんぷんの種類によって、糊化の特徴が異なり、それによって「もっちりしたうどん」になったり、「あっさりしたうどん」になったりします。よって単純に(強力粉+薄力粉)/2でうどんを打っても、うどん専用粉と同じうどんにはなりません。

何れにしても、うどんの味や食感(コシ)はグルテンやでんぷんの両方に影響され、つまりそれぞれの小麦の種類によって違うということになります。もちろん同じ小麦であっても製粉方法によっても違いは生じます。だからうどんの原材料は小麦粉、塩、そして水だけと単純ですけど、なかなか一口では説明しきれないところがあります。