#143 たんぱく質の性質と「うどん」の関係

現在、うどん用にもっとも製粉されている小麦銘柄はオーストラリアのASWです。オーストラリアはここ2年は干ばつに見舞われましたが、平均すると年間2000万トン以上生産され、日本の90万トンと比べるといかに農業大国であるかがわかります。大規模生産のひとつのメリットは、小麦間のばらつき(不同)が少なく、安定した小麦粉生産ができることです。

一方、日本は棚田に代表されるように狭小な地形が多く、あぜ道一つ挟んだだけで、水はけが違うこともあります。その結果、同じ地域であるのに品質が違ったり、また全体の生産量も少ないので、どうしても小麦の品質に不同ができるのは仕方ありません。商品を製造するときも、一か所で大量生産すると均一なものができるのに対し、色々なところで少しずつ生産するとばらつきが生じるのと同じ理屈です。

ただ地平線が見える広大な農地で生産されるASWといえども、すべて同じ品質というわけではありません。その理由は、小麦は工業製品とは異なり農作物なので、天候など自然環境の影響を受けるからです。年によって降水量、気温、日射量などに差があり、これが品質に影響するのはやむを得ません。特に干ばつに遭うと水分が充分に摂取できないので、粒が小さくなったり、また硬くなったりします。そして硬くなるとたんぱく質が硬くなり、生地の熟成時間、ゆで時間、そしてうどんの硬さなどに影響がでることもあります。

そういった同じ品種内におけるバラツキに対応するため、各製粉会社は港に入ってくる船毎の小麦の分析データを先方から提供してもらい、それを基に製粉方法を決定します。例えば製粉時には、小麦の胚乳部分が表皮から離れやすくするために、予め小麦に加水しますが、この加水量は、小麦に含まれる水分により決定されます。つまり小麦に含まれている水分が多いときには、加水は少なく、逆に水分が少ないときは加水を多くし、製粉時には同じ銘柄であれば、どの小麦も同じ水分になるように調整します。このように船毎の小麦データは製粉する上で重要な判断材料になります。

一般に、同じ船に揺られてやってきた小麦は、きっと同じ地方で収穫されたものなので、その中での不同は少ないであろうと推測できます。また、船が違えばそれは同じ銘柄であっても、違う地方でとれたものだから、分析結果は少しずつ違うだろうと考えることができます。だから船毎の小麦データは、「まあ一回で大丈夫だろう」ということになっています。そして各製粉工場では、予め提供された小麦データを基に、できるだけ最終製品の小麦粉に不同がないよう製粉条件を微調整しながら製粉をします。

ただこれだけ準備しておいても必ずしも充分であるとはいえません。例えばたんぱく質は重要な指標ですが、数字だけでは把握しきれない面があります。つまり同じ10%のたんぱく質を含んでいる小麦でも、その性質が異なることがあります。小麦には80種類以上のたんぱく質が含まれているので、たとえ全体としては同じ量のたんぱく質を含んでいても、異なる地域の小麦ではその性質に違いがでるのも仕方ありません。

簡単にいうと同じ量であっても、硬いたんぱく質や軟らかいたんぱく質があります。同じたんぱく質量の小麦であっても、製粉していて硬いものもあれば軟らかいものもあります。よって同じ加水量であっても、前者は硬い生地になり後者は軟らかくなります。前者は硬いのでそれだけ熟成時間が必要になり、後者は短時間で熟成が完了します。

うどん作りでは土三寒六と言われるように、塩加減、水の量は季節に調整する必要があります。小麦粉も農産物なので、毎回判でついた(押した)ようにならないこともあります。だからそのあたりは、うどん作りと同じように、時には大らかな眼差しで見ていただければ、製粉会社としても助かります(汗)。

まとめ

  • 同じたんぱく質の含有量でも、小麦によって「硬いとたんぱく質」と「軟らかいたんぱく質」とがある。

  • 同じ量のたんぱく質を含んでいても、硬いたんぱく質であれば、生地は硬くなりやすい。そしてその対応策としては、加水量を増やすか熟成時間を長くする方法がある。
  • 小麦は農作物なので、ある程度のぶれ(不同)は稀に起こる。特に干ばつなどの天候の影響を大きく受けやすい。