#142 うどん怪人の集い2008 in さぬき・・・グルテンの網目構造

先日、うどん好きの人たちの集いがあったので覗いてきました。元々は東京のうどんマニア総勢20数名が2泊3日のさぬきうどんツアーにやってくる予定ではあったんですが、折角だからというので地元のうどんマニアとの盛大な交流会になりました。集まったメンバーは、東京組を始め、大阪、兵庫、岡山、四国四県、それに九州からも駆けつけ、懇親会は一時80名を越えました。折しも、「世界の麺フェスタ」が大々的に開催中ですが、こういった草の根うどん活動もなかなか活気があり、逞しくて大好きです。

うどん怪人の集い2008 in さぬき

うどん怪人の集い2008 in さぬき

彼らは連日、少なくとも5軒以上のうどん店をはしごし、10玉以上のうどんを食べます。もちろんそれだけでは飽きたらず、夜は宿舎でうどん談義に花を咲かせ、翌日の作戦を練りあげます。私も毎日お昼の「うどん・大」は欠かしませんが、お腹が一杯になってまで食べようとは思いません。中には、1000店以上のうどん屋さんを制覇した猛者もいます。一口に1000店というけれど、毎日3店廻っても1年かかるし、それより何よりさぬきに現存するうどん店は900店前後と言われているので、不幸にして閉めてしまったお店はもとより、県外のうどん店も積極的に開拓しなくては、到底達成できる数字ではありません。また納入業者よりも早く開店情報を嗅ぎつける特異な才能の持ち主など、ただただ皆さんの特異な才能に圧倒されました。

製粉工場見学後の記念写真

製粉工場見学後の記念写真

彼らの一部は多忙なスケジュールの合間を縫って、年代物の製粉工場を見学にきてくれました。小麦粉を篩う大きな篩機(ふるいき:これをシフターといいます)の回転運動によって木造建物が揺れるのを呆然と見つめていました。初めて見えた方は、窓の桟が「キュッ、キュッ」と軋むのを聞き、一様に「おお~」と叫び声を上げますが、会社の人間はこの音によって、工場が正常運転していることを知り安心します。逆に音がしないときは何らかの事情で操業が停止したことで、居心地がよくありません。

三木英三うどん博士によるうどん授業の一コマ

三木英三うどん博士によるうどん授業の一コマ

 

今回のうどんツアーの目玉のひとつに、香川大学農学部の三木英三先生による「うどんの授業」がありました。三木先生はうどんを物性(うどんの言葉でいうと食感)の面から、永年研究されてきたうどん博士で、前回のうどんツアー(新着情報#060)に引き続き、今回もご無理をお願いしました。内容の全ては紙面の都合上無理ですが、印象に残った「S-S結合」だけをご紹介しておきます。

うどんを作るとき、小麦粉と塩水を混ぜ合わせて生地をつくりますが、練った直後の生地は肌が荒れ、硬くて、そのままではうまく延びません。で、生地を乾燥しないようビニール袋にくるんでしばらく放置させますが、このことを生地の「熟成」といいます。熟成させることによって、生地は「てかてか」と艶が増して軟らかくなり、麺棒でうまく延びるようになります。このことを専門的な言葉で「構造緩和(structural relaxation)といいます。つまりこの熟成期間中に、グルテンのネットワーク、つまり網目構造が増えていくのです(この言葉と対比して、捏ねて生地が硬くなることを加工硬化(本当は捏練硬化とよびたい)といいます)。

眠かったうどん授業の後の記念写真

眠かったうどん授業の後の記念写真

具体的には生地を練り上げた直後は、SH基が主体で、全体としては主として縦の網目構造を形成しています。熟成中にこれが減少し、代わりにS-S結合という横の繋がりが増え(SH-SS交換反応)、網目構造をより稠密(ちゅうみつ)なものに変化させます。この強力なグルテンのネットワークによって、生地は薄く延ばしても切れないのです。

グルテンの網目構造のイメージ図 →

「ではなんでSH基が減って、S-S結合が増えるんだ?」と聞かれると困りますけど、こういう風に説明されると形式的にせよ、なんとなくわかったような気になりますよね。簡単にまとめると:

練り上げた直後の生地は、硬くてそのままでは延びないが、熟成させることにより、艶がでて、軟らかくなり延びやすくなる(この現象を構造緩和という)。具体的には、当初縦方向のSH基が主体であったものが減り、横のS-S結合が増えて、網目構造がより稠密に、そして強力になるからです。