これまでの流れを簡単に整理しておくと次のようになります。

①本格的なサドルストーンの登場は、エジプトの第3王朝時代で、紀元前三千年紀。そしてエジプトではそのサドルストーンに時代が延々何千年と続いた。

②それ以後の一連の進歩は、ギリシャ人主導で地中海東部のデロス島を中心に紀元前500年以前頃に始まった。そしてスラブミルからカーンまでの一連の改良は僅か100年以内に行われ、サドルストーンが永く続いたエジプトとは対照的だ。

③基本的な流れは、サドルストーン → プッシュミル → レバーミル → アワーグラスミル → カーン。カーン以前のものは、すべて過渡期の形態だが、カーンは歴史的にみてもその後のミルストーンの原型として意義がある。

またストーク先生の説によれば、この紀元前一千年紀(BC1000~BC1)における一連の流れの中で注目すべきポイントが2つあると言います。それについて少しご紹介したいと思います。

①サドルストーンによる製粉が人類史上初の産業となったこと
サドルストーン(下石)とラバー(上石)との組合せは一連の改良を経て、サイズが大きくなり、また動作も良くなりました。もちろん大型化に伴い、その操作には力の強い男性が必要でしたが、小麦粉の生産量は増えました。そして男性一人が一日中挽くと、一家を養う以上の小麦粉が生産でき、その残りは販売もしくは他の物品との交換に使用されました。ここに製粉は晴れて職業となったわけです。そのうちに家庭内だけではなく、独立した産業施設の中でも運営されるようになり、これが商業製粉へと発展します。

世界最古の産業は何かと考えるとき、蹴轆轤(難しい字ですが「けろくろ」と読むそうです)、つまり足で蹴って廻すロクロによる陶器製造工場の出現もかなり早かったようです。けれど小麦粉製造業はそれより更に早いと考えられていて、現在のところ「製粉業」は世界最古の産業ということになっています。つまり、小麦粉製造業は、世界最古の産業であるばかりでなく、それから途切れることなく現在までずっと続いている世界で一番息の長い産業ということになります。

②連続的な回転運動を粉砕方法に利用したこと
弧状運動を利用したレバーミルを経て、回転運動のアワーグラスミルが考案されました。 これにより人力及び畜力が100%有効利用できるようになり生産量は飛躍的に伸びました。そして更に有意義なことはこれが契機となり水力、風力など自然の力を動力として、あらゆる仕事に応用できるようになったことです。私たちは最初から当たり前のように石臼を見ていますが、この回転運動というのは歴史的に見ても、画期的な「世紀の大発明」であったようです。