小麦は現在、全世界で年間7億トンも生産されています(2011/2012期)。
穀物の中ではトウモロコシの生産量が一番ですが、食用に限ると小麦です。

世界の小麦事情

現在世界中では、毎年18億トンあまりもの、穀物が生産されています。2002年は小麦が約5億8000万トン、米が約3億7000万トン、そしてとうもろこし、大麦などの雑穀が約9億2000万トン、合計

で約18億7000万トンにもなります。日本で穀物といえば米ですが、世界的にみれば、小麦になります。
小麦粉は後で詳しく説明しますが、加工特性に優れているため、実に様々な食品に使われ、使用量、用途どれをとっても、もっとも人気の高い穀粉です。正に小麦は穀物の王様といえます。

我々に関心のある小麦は、平地だけでなく高地でも、また暑いところでも、寒いところでもとれます。つまり、それぞれの地域に順応性があるために、世界各国で栽培されています。
国際穀物理事会の2000年度の資料によれば、生産量の多い国順に並べてみると、EC約1億400万トン、中国1億200万トン、インド約7500万トン、旧ソ連約6300万トン、アメリカ約6000万トン、カナダ1800万トン、オーストラリア約1600万トン、そしてアルゼンチン約1200万トンと続きます。
この中で興味深いのは中国です。中国は年間1億トン以上生産しながら、それでもまだ足りないので、小麦輸入国となっています。正確な人口は不明ですが、仮に13億人としても、国民1人当たり年間60kg以上の小麦粉を食べていることになります。
また米も年間約100kg食べているので、中国の人は米も小麦粉も実によく食べているのがわかります。

さて、我々日本の中に目を向けると、日本では2000年度には約630万トンの小麦が消費されました。
このうち国産小麦は約70万トンで、残りの560万トンが輸入された小麦です。私たちは、国産小麦のことを内麦(ないばく)そして輸入された外国産小麦のことを外麦(がいばく)とよんで区別しています。外麦560万トンの輸入先は3カ国で、アメリカが、約310万トン、次にカナダ140万トン、そしてオーストラリア110万トンの順になります。

 

わが国の小麦の自給率は10%程度で、多くは輸入に頼っています。そしてこの630万トンの小麦からは約500万トンの小麦粉がとれ、このうち約200万トンがパン用、170万トンがめん用、そして60万トンが菓子用に使用されます。

私たち日本人の主食は米ですが、米の消費は、年々減りつづけ、昭和37年のピーク時には1人当たり年間120kg食べていたのが、2000年には62kgまで落ち込んでしまいました。逆に、小麦粉の消費は、食生活の洋風化にともない、少しずつ増え2000年には1人当たり平均32kgの小麦粉を食べています。余談になりますが、米と小麦粉の合計の消費量はこの40年間に、平均146kgから94kgに、なんと50kg以上も減少しています。つまり、主食が減った分、主食以外のたんぱく質とか脂質の摂取量が増え、これが、生活習慣病増加の最大の原因と言われています。

 

 

小麦の種類

一口に小麦といっても、いろいろな分類方法があります。例えば、栽培する季節に注目すれば、秋に種子をまいて、翌年の夏頃収穫するタイプを「冬小麦」とよび、春にまいて秋に収穫するタイプを「春小麦」といいます。また粒の色に注目すれば、外皮が褐色系統のものを「赤小麦」、黄色系統のものを「白小麦」と呼んで区別しています。しかし、一番よく使用されている分類法は、小麦の粒の硬さによるものです。粒が硬い小麦は「硬質小麦」、軟らかい小麦を「軟質小麦」そして、普通程度の硬さの小麦を「中間質小麦」と呼びます。

また一般に、小麦の硬さは、その中に含まれているたんぱく質の量に比例します。つまり、たんぱく質が多く含まれている小麦が「硬質小麦」、少ないものが「軟質小麦」、そして、中程度のものが「中間質小麦」ということになります。そして「硬質小麦」からとれた、たんぱく質を多く含んでいる小麦粉を「強力粉(きょうりきこ)」、同様に「中間質小麦」、「軟質小麦」からとれた小麦粉をそれぞれ「中力粉(ちゅうりきこ)」、「薄力粉(はくりきこ)」とよんでいます。硬質小麦はパン用として、また、軟質小麦はケーキなどのお菓子に利用されます。

パン用の代表的銘柄としては、カナダ産の1CW(No.1 Canada Western)、そしてアメリカ合衆国産のHRW(Hard Red Winter)があり、どちらも年間100万トン以上輸入されています。また菓子用としては、アメリカ合衆国産のWW(Western White)が有名です。私たちがもっとも、よく利用する麺用に適した中力粉は、主としてオーストラリアで栽培されるASW(Australian Standard White)という「中間質小麦」から作られます。オーストラリアにはもともと、日本のようにうどん、そうめんを食べたりする習慣はありませんが、日本用に小麦の品種改良を重ね、今日麺用に最適といわれているASWという銘柄を、開発しました。日本でも最近麺用にと、様々な品種が開発されていますが、総合点で考えると、まだこのASWを越える銘柄は現れていません。

代表的銘柄一覧
ASW (Australian Standard White)
名称:エー・エス・ダブリュ(オーストラリア産スタンダード・ホワイト)
オーストラリアで生産されている中間質小麦で、日本では麺用粉の原料として高い評価を得ています。年間90万トン程度輸入されています。
  1CW(No.1 Canada Western)
名称:ワン・シー・ダブリュ
カナダで生産されている硬質小麦です。パン用粉原料に最適な小麦で、年間90万トン輸入されています。
  WW (Western White)
名称:ダブダブ(ウエスタン・ホワイト)
アメリカ合衆国で生産されている軟質小麦です。菓子用、麺用原料小麦に使用され年間80万トン程度輸入されています。
  HRW (Hard Red Winter)
名称:ハイプロ(ハード・レッド・ウインター)
アメリカ合衆国で生産されている硬質小麦です。主としてパン用粉原料に使用され年間90万トン程度輸入されています。
  DNS (Dark Northern Spring)
名称:ディー・エヌ・エス(ダーク・ノーザン・スプリング)
アメリカ合衆国で生産されている小麦の中では最も製パン性に優れています。年間120万トン輸入されています。
香川内麦・さぬきの夢2009
名称:さぬきの夢2009
収量性や食味評価が優れる「香育1号」を母親に、耐倒伏性に優れ、製粉性や粉の色が良好な「関東120号」を父親に生まれました。
  チクゴイズミ
名称:チクゴイズミ
粘りのある食感が特長です。以前は香川での生産銘柄でしたが、「さぬきの夢2009」に移行したため、現在は主として九州で生産されています。
  北海道小麦・きたほなみ
名称:きたほなみ
北海道で生産されている国産麦です。現在国産小麦の多くは北海道で生産されています。現在日本で最も生産されている品種です。

 

 

小麦の構造

小麦粒は平均すると、長さ6.2mm、幅2.8mm、そして重さが0.03gの小さな粒です。構造は右の図のように大きくわけて、胚乳、表皮、そして胚芽の3つの部分からなりたっています。胚乳は全体の約83%を占め、この部分が小麦粉になります。糖質とたんぱく質が主成分ですが、中心部と表皮部分では、その比率および品質に違いがあります。
表皮は全体の約15%を占め、ふすまとして家畜の飼料に使用されます。胚芽は、約2%含まれていて、ここは発芽するための、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミンなどの栄養素がぎっしり詰まっている生命の中心で、健康食品などに利用されます。

小麦粉の品質をあらわす重要な指標のひとつに「灰分(はいぶん)」があります。小麦粉を高温で燃やしたときに、その主成分であるたんぱく質、でんぷん、脂質などは燃えてなくなりますが、一部は燃えずに灰として残ります。これが灰分とよばれるもので、その実体は小麦粉に含まれている、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラルです。一般に灰分量の少ない小麦粉は冴えたきれいな色をしていますが、多くなるにつれて、灰白色のくすんだ色になり、多すぎると麺にした場合に、舌ざわりが悪くなるといった欠点もあります。灰分が多いということは、ミネラルも多いということなので、栄養的にみればいいことなのですが、このような理由により、実際は灰分の少ない小麦粉が好まれます。そのせいか、灰分の少ない小麦粉は上級粉、多い小麦粉は下級粉とよばれています。

灰分値は同じ小麦でも、部位によって異なります。上級粉となる中心部の灰分は約0.3%で、表皮に近づくほど高くなり、同じ胚乳部でも、表皮近くでは約0.8%と高くなります。つまり、中心部分からは上級粉がとれ、表皮部分に近づくほど、下級粉になるわけです。そして表皮部分の灰分値は中心部分の10倍以上になり、小麦全体での灰分値は1.1~1.8%程度になります。一般に、硬質小麦より軟質小麦の方が、また当然ですが、粒が大きくなるほど、灰分値は低くなります。

 

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