#958 最近の音楽事情②・・・現代音楽
先月の今頃は、毎日ハラハラ・ドキドキしながら拝むような気持ちで天気予報をみていました。その甲斐あってかどうかはともかく、今年はラストワンマイルも無事走りきり「さぬきの夢」を無事収穫することができました。生産者の方々にはこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。また今年は新品種「さぬきの夢2023」への切替初年度でもあり、少々ですが工場生産できるだけの量も収穫できました。
小麦はお米やそばと異なり、収穫直後は品質が安定していないため、数ヶ月熟成させた後に製粉するのが良いとされています。しかし「どうしてもうどんの日(7月2日)までに打ってみたいといううどん屋さんも多いため、フライングではありますがただいま鋭意準備中です。さてイラスト担当者による新着情報をお届けします。
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今年も大学時代の恩師である井上郷子先生のリサイタルにいってまいりました。さとこ先生は現代音楽家兼ピアニストであり、私の大学時代の現代ピアノの先生でもありました。身体は華奢ですがピアノに向かう姿はとてもパワフル、また一見ものごしは柔らかく穏やかですが内面は芯が太い、いわゆる柔剛あわせ持つ素敵な先生です。
そんな先生は数年前に大学を退職され、今は演奏活動に専念し、リサイタル開催は今年で34回目となりました。個人リサイタルでこの回数を重ねてこられた背景には、単に卓越した演奏技術だけではなく人柄や性格が大きく寄与しているのだと、満席のコンサート会場を目の当たりにして実感しました。現代音楽というと素人はもちろん、音楽人にとっても少し尖った印象のあるジャンルになります。私も大学で専門的に学ぶまでは、現代音楽に触れる機会がありませんでしたので、最初はかなり戸惑いました。
紹介したい作品はたくさんあるのですが、ここでは今年のリサイタルの中で印象深かった作品、キム・ヨハンさんの「3つのピアノに関するモデル」をご紹介します。まずびっくりしたのは演奏前に予め観客の皆さんにはQR付きの紙が配布され、各自そこから自分のスマホに音源データをダウンロードするのです。そして演奏中に合図が送られたタイミングで各自その音源の再生ボタンを押すようにと、事前説明がありました。当たり前のことですが、一昔前においてはこういった演奏形態はあり得なかったことです。
みんな心なしかそわそわしながら演奏を聞くこと数分、ついに合図が送られると、一斉に各スマホからピアノの旋律が流れ始めました。先生の奏でるステージ上のピアノの旋律とリンクした音が重なることで会場全体にピアノの音が波打つ感覚を体感しました。当然ですが、面白いことに各スマホから流れる旋律はタイミングがピタリと合っているわけではなく、微妙なズレを生じながら音楽が進行していくのです。その微妙なズレが、未体験の雰囲気を醸しだし、またそれは全く同じものは再現できない「偶然性を持った現代音楽」といえます。
演奏が進むなかおそらく誤操作した観客がいたのでしょう。途中、突如として全く違う音楽が流れ始めました。私は内心「この演奏途中になんという失態だろう!」と少々モヤっとしました。しかしよくよく考えてみると、ひょっとしてそういった誤操作も偶然性のひとつであって、それもまた作曲者の狙いだったのかもしれません。ステージから奏でられる生のピアノの音色と、レコーディングされたスマホから再生されるピアノの音色が混在している状態は初体験であるがゆえ斬新かつ新鮮で、興味深いひとときを体験しました。