#957 3代目さぬきの夢「さぬきの夢2023」の収穫始まる
うどん県オリジナル小麦の新品種「さぬきの夢2023」の収穫が5月27日に始まりました。「さぬきの夢2023」は、「さぬきの夢2000」⇒「さぬきの夢2009」に続く3代目「さぬきの夢」となります。ここで少し復習しておくと、「さぬきの夢」は、香川県農業試験場がさぬきうどんのために開発した小麦の総称です。初代「さぬきの夢」は2000年に登場した「さぬきの夢2000」、そして現在は2代目の「さぬきの夢2009」が流通しています。
2代目「さぬきの夢」が登場してから10年以上が経過し、そろそろ次期「さぬきの夢」の登場が待たれるところでした。新たに開発される「さぬきの夢」の新品種は、命名規則としてその品種登録された西暦年20XXが付与されることになっています。タイトルは「さぬきの夢2023」の収穫始まるとなっていますが、今年の作付け80haのみで、これから2年かけ令和9年には2500ha全面切替となります。
5月27日は収穫開始ということもあり、報道関係者も見学に訪れました。生産者の松浦さんは感想を聞かれ、「初めての取り組みなのでワクワクしています。」とか「あのうどん屋にいったら『さぬきの夢2023』を使うとるぞ。旨かったけんまた行ってみたい、と言われるような小麦をつくりたい。」と答えていました。松浦さんが日焼けした顔でニコニコしながらインタビューを受けている姿をみて、私たちも「さぬきの夢2023」に対する期待が益々大きく膨らみました。
今回の改良点は、ズバリグルテン強化による作業適性の向上です。グルテンというのは小麦粉特有のタンパク質で、これは建物にたとえると鉄筋の役割をします。つまりグルテンがうどんの中で立体網目構造を形成することでうどんが切れずにコシをだすことができるのです。しかしグルテン量が少ないと、鉄筋が細くなったり、鉄筋の本数が少なくなったりして強度が弱くなり、結果としてうどんが切れてしまいます。今回開発された「さぬきの夢2023」は、グルテンの中でも特に強度の強いグルテンインデックスという成分が多く含まれ、それだけ作業適性が向上し、うどんが切れにくくなっています。
実際に2次ユーザー(うどん屋さん)に試作してもらったところ、「製麺しやすくうどん歩留まりの向上が期待できる。また麺のコシが強くなり、茹でた後の状態も良好。さらに時間が経過してもしっかりして美味しい。」といった肯定的な意見が多く聞かれました。一方、「見た目は以前(さぬきの夢2009)よりちょっとくすんで見えるなあ!」との感想に対し、「これもまた内麦らしいではないか」といったアバタもエクボ的な感想もありました。
今回のグルテン強化の改良に対し、うどん屋さんと並び期待度が高いのが小豆島の手延そうめん製造者です。手延そうめんは、生地をどんどん延ばすことで太さが元の1/10000の細さになり、この製法が手延そうめん特有のツルツルシコシコ感を生みます。そしてこの製造工程において麺が切れないためには、強いグルテンが不可欠です。そこで従来は困難であった手延そうめんの製造が、「さぬきの夢2023」ではできるのではないかと、大いに注目されています。
ところで先日、麦秋にちなみ自地元紙でミレーの有名な「落穂拾い(1857年)」が紹介されていました。ここでは刈り入れが終わった畑に僅かに残っている小麦の穂を拾い集める様子が描かれています。この落ち穂拾いは、麦畑の収穫に雇われて手伝う農民が自身の糧にするために認められた慣行であることを知りました。僅かな量であっても、農民たちにとっては貴重な小麦であったに違いありません。現在は、大きなコンバインであっと言う間に刈り取ってしまいますが、ほんの150年ほど前にこんな世界があったとはにわかには信じられません。
こちらは「さぬきの夢2009」