#956 製麺所タイプのうどん店②・・・一般うどん店と製麺所の違い
うどんそのものの需要は増えたにもかかわらず、製麺所が激減した理由は、製造、包装、保存、流通の各段階において技術革新が進んだ結果です。一昔前なら、製麺所でゆでたうどんをせいろに入れて、近隣のお店に配達していましたが、今では大きな製麺工場できれいに包装されたうどんが、遠方の量販店にまで配送され、きれいな冷陳ケースに並びます。また昔はなかった冷凍うどんも、現在では多くの家庭に常備される時代になりました。つまり技術革新の結果、うどんの多様化が進み、また同時にメーカーの集約化がおこりました。
その結果、お店に直接うどん玉を卸す小規模製麺所は、品質では優位に立つものの、非効率であるために大量生産のチルドうどんとの価格競争に防戦一方となりました。うどん県においても製麺所は激減し、すっかりマイナーな存在となりましたが、そのせいか逆に製麺所のうどんは、その特徴が見直されるようにもなりました。そこで改めて製麺所と一般うどん店の違いについて考えてみます。一般のうどん店を基準にすると、製麺所のうどんには次のような特徴があります。
①仕込みの量が多い機械製麺
小規模とはいえ各所にうどん玉を卸すため仕込み量は多くなるため、手打ちではなく、ミキサーを使用しての製麺となります。
②しっかりとしたうどんの食感
専門店のうどんはゆでたてがでてきますが、製麺所のうどんは、その日のうちに食べてもらえるとは限りません。よって翌日でも美味しく召し上がってもらえるうどんを目指します。そのためには、「宵練り(よいねり)」、つまり製造日の前日に生地を仕込み、一晩寝かせて、脱気させることで一層コシと粘りをだします。つまり時間をかけて寝かすことで生地中の気泡が抜け、しっかりとした生地に仕上がります。そしてこの生地を製麺することで、食感のしっかりとしたうどんに仕上がり、ゆでた翌日でもその美味しさが持続されます。
このうどんの「しっかり感」つまり翌日でものびないうどんをつくるために真空ミキサーを利用する製麺所もあります。真空ミキサーとは、密閉された容器の中に小麦粉と塩水を入れ、空気を抜いた(減圧)状態で生地を捏ねるために、しっかりとした生地に仕上がるので、製麺所には好適です。ただ真空ミキサーは高価であるためかなりの量を製造する製麺所でないとオーバースペックになり採算が厳しくなります。
うどんに限らず一般に食品は、食味(風味を含む)と食感によって評価が決まります。うどんの食味、つまり旨いかそうでないかは、①水和(水回し)と②熟成の出来が大きく影響します。特に水分を均一にゆき渡らせる水和工程は、その後の工程すべてに影響するので最重要です。そしてこれは「宵練り」、「朝練り」どちらにおいても共通であり、最重要です。
一方、食感については両者には若干の違いがあります。製麺所のうどんが宵練りであるのに対し一般店のうどんは、「朝練り」が多いようです。朝練りの生地、即ちミキシング後、長時間経過していない生地は、まだ気泡を含んでいるため、ふっくらとゆであがります。ゆでたての提供が基本の一般店では、こちらの方がやさしい食感になります。うどんは単に硬い食感がコシではなく、噛みはじめは軟らかく、次第に内側がしっかり感じられるうどん、つまりめんに含まれる水分の勾配格差がコシとなります。このような状態を「軟らかい中にもコシがある」と表現することがありますが、この一見矛盾した表現が、うどん本来のコシです。
まとめると製麺所のうどんは、脱気された分しっかり感が強調された食感であるのに対し、一般店のうどんでは、脱気されていないため気持ち柔らかい食感に仕上がります。よってどちらの食感が好みであるかは、各個人の評価によって分かれます。手打ち、機械製麺ともにそれぞれの特徴があり、基本に忠実につくれば食感に差異はあるものの、どちらも美味しいうどんができあがります。