#955 製麺所タイプのうどん店①・・・うどんレッドデータブック
うどん県の地元紙(四国新聞)では、これまでうどんの価格調査を8度実施しています。実施方法は、うどん店を①セルフ・製麺所タイプと②一般店の2種類に分け、それぞれのかけうどんの価格を調査します。一般にセルフ・製麺所タイプのお店のうどんは、一般店よりも価格が安く設定されていますが、その理由は人件費等のコストダウンが可能だからです。ここで改めてこれらのうどん店の形態を簡単に整理すると次のようになります。
【一般店】
これは一般的なうどん店のイメージです。着席するとスタッフが注文を取り、うどんを席まで運んできてくれる、通常の飲食店スタイルのうどん店です。落ち着いて食事ができる。
【セルフ店】
客が自分でトレーを取り、うどんを受け取り、天ぷら・おにぎり・いなり寿司などを選び、最後にレジで会計する「セルフサービス方式」のお店です。食事が終われば空いた器は、各自返却口へ戻します。このタイプのお店は、「早い・安い・旨い」と三拍子揃っているのが特徴です。うどん県以外ではあまり見かけないので、うどんツアー客にも人気ですが、営業時間は短く午後3時位で終了するお店が大半です。
【製麺所タイプ店】
もともとはうどん玉を量販店や店舗に卸していた製麺所(卸・販売目的)が、お店の一角でうどんを提供し始めた形態です。
製麺所タイプのうどん店とは、そもそもそのような経緯で誕生したのかは、次をイメージしてもらえれば良いと思います。今から遡ること70年、昭和30年11月(1955年)に、今はなき久保義明氏が㈲久保製麺を創業します。店を始めて程なく、「ここでうどん、食べさせてくれんな!」という人がぽつぽつ現れてきたので、店頭サービスを始めます。これが昭和32年のことでした。
最初は、うどんの上にかつお節をのせ、生醤油で食べる、単純なうどん(今でいう生醤油うどん)でしたが、打ち立て、揚げたてなので、良く売れました(というか、やっぱりうどんが旨かったのでしょう)。しかし、うどん玉の代金しか払ってくれず、「売れれば売れるほど、赤字になった」そうで、「これでは、いかん」といいうことで、出し汁を作り別途料金を請求することになりました。
すると今度は保健所から「食中毒がでたら困るがな!」とクレームがきます。当時はうどんの玉卸しの許可しかなく、店頭でうどんを食べさせるには、別に飲食の許可が必要だったので、当然といえば当然です。しかし飲食する場所もないし、「どやんしょうか?」と思案したあげく、「製麺と飲食をする場所の間に仕切りを作って申請したら、三ヵ月後に飲食の許可が下りた」。で、「晴れて、お店でうどんを食べさせることができるようになりました」っと。よって、「製麺」と「飲食」の許可を両方とったのは、久保製麺が多分最初で、これが「さぬきうどんセルフ第1号店」でもあります(新着#073)。
かつて昭和の時代には、このような製麺所を兼ねたうどん店(というかうどん店を兼ねた製麺所)が香川県内には数多く点在し、香川県内には3000店余りのうどん店がありましたが、直近では523店舗と激減しました(「さぬきうどん全店制覇攻略本2025-2026版」)。うどん需要そのものは増加しているにもかかわらず、店舗数が激減した理由は明らかです。多くの小さなうどん店や製麺所タイプのうどん店が閉店し、代わりに比較的規模の大きなセルフ店が登場したからです。
弊社のある坂出市内に限っても、彦江製麺所(2010年10月)、上原製麺所(2013年5月)、兵郷(ひょうごう)製麺所(2017年12月)といったといった老舗の製麺所兼うどん店が惜しまれながら相次いで閉店しました。このようなオンリーワンうどん店は、食味の良さもさることながら、他店にはないその店独自の雰囲気が魅力となり、県外から多くのうどんツアー客が押し寄せてきました。つまり単なるうどん店ではなく総合的なうどん文化を提供する場でもあったわけです。しかしそういったユニークなうどん店が次々と姿を消すのは見るにしのびなく、さぬきうどんの多様性が徐々に失われつつあるような気がして残念です(新着#599)。ということで製麺所タイプのうどん店は、今やうどん業界においては、レッドデータブックに登録されるべき絶滅危惧種となりました。弊社においても製麺所ユーザは、数えるほどになりましたが、幸いみなさん繁盛店として頑張っています。